研究課題/領域番号 |
15K17069
|
研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
窪田 康平 中央大学, 商学部, 准教授 (20587844)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 借入制約 / 大学進学 / 世代間社会移動性 |
研究実績の概要 |
経済格差が世代間でどの程度継承されているのかについての研究はいくつか存在するが、その決定要因についての実証研究は十分に蓄積されていない。親子両方の経済水準を含むデータの入手が困難であることが主な理由である。資本市場の不完全性が世代間社会移動性を規定する要因の一つと指摘されている。しかし、そもそも借入制約が原因で進学できなかった人がどの程度存在し、どのような家計の子どもが借入制約が原因で進学できなかったのかについて明らかではない。 本研究は以下の点を明らかにすることが目的である。第一は、借入制約が原因で子どもが進学できなかった家計の属性を明らかにすることである。第二は、世代間社会移動性と大学進学の関係を明らかにすることである。第三は、それらを国際比較することである。 これまでに二つの研究を行った。第一はアメリカのデータを用いた研究である。この研究では主に以下の点を明らかにした。第一に、先行研究と同様、大学進学時に金銭的な理由で進学をあきらめた人の割合が若い世代で高いことである。第二に、親の経済水準が高いと進学をあきらめた人の割合が低いことである。第三に、大学へ進学した人の子どもの頃の経済水準と現在の経済水準の差が正で有意である。この結果は、大学進学が世代間社会移動性を高めたことを示唆している。同様の研究を日本のデータを用い、概ねアメリカと同様の分析結果を得た。今年度は、これまでに指摘された研究の問題点を克服するために、新たに収集したデータを用いて研究を改善する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究会でのフィードバックや査読レポートから本研究の課題が浮き彫りとなった。その課題を克服するために、新たなデータセットを利用する必要が生じ、本研究の進捗がやや遅れている。 本研究の課題はアンケート調査の主観的評価の信頼性を示すことである。主観的評価による回答は回答者の観測できない特性と関係したり、アンケートの文言に起因する計測誤差により、主観的評価の変数を用いた統計分析に疑義が生じる。この点を改善するために、大学進学の費用に関する客観的なデータを用いることによって主観的な評価の変数の信頼性を確認し、さらに、借入制約の指標を作成する研究計画を策定した。 大学進学のコストは次のような要因によって決まると考えられる。大学の授業料、大学までの距離、大学の定員、大学の偏差値、地域別の18歳の人口、地域別の失業率である。これらは居住地と生まれ年によって異なるため、アンケート調査と合わせることができる。主観的な評価による借入制約と大学進学の費用に関する客観的な変数との関係を調べることによって、主観的な評価による変数の信頼性を確認できる。今年度は様々な機関から過去の『蛍雪時代』や『全国大学受験案内』を入手し、過去の大学の授業料や偏差値などのデータ入力を行った。
|
今後の研究の推進方策 |
大学の費用についてのデータセットを活用し、借入制約に直面する度合いの数値化を試みる。借入制約に直面する度合いは大学進学の費用の高さとしてみることができる。この費用は個人の能力、最寄り大学の距離、最寄りの大学の授業料、最寄りの大学の偏差値、大学の定員、18歳人口、失業率などと関係し、個人ごとで異なると考えられる。今後は、主観的な評価による借入制約と大学進学の費用に関する変数との関係を統計的に分析し、借入制約に直面する度合いを推定する。ただし、大学の費用に関するデータとアンケート調査と合わせて得られる観測数が少ないという問題がある。入手可能な資料は過去20年程度であるため、さらに過去にさかのぼって大学進学の費用に関する資料を入手する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
より精緻な分析をするために、大学進学の費用に関する資料を集め、データ入力する必要が生じた。このため、事業期間の延長を行った。昨年度は旺文社が発行する『蛍雪時代』や晶文社が発行する『大学受験案内』から大学の情報を収集し、データセットを構築した。今年度は引き続き資料の収集とデータ入力を行い、その後に分析を行う予定である。
|