経済格差が世代間でどの程度継承されているのかについての研究はいくつか存在するが,その決定要因についての実証研究は十分に蓄積されていない.親世代と子世代の両方の経済水準を含むデータの入手が困難であることがその理由の一つである.資本市場の不完全性が世代間社会移動性を規定する要因の一つと指摘されている.しかし,そもそも借入制約が原因で進学できなかった人がどの程度存在し,どのような家計の子どもが借入制約が原因で進学できなかったのかについて明らかではない.本研究は以下の点を明らかにすることが目的である.第一は、借入制約が原因で子どもが進学できなかった家計の属性を明らかにすることである.第二は,世代間社会移動性と大学進学の関係を明らかにすることである.第三は,それらを国際比較することである.これまでに二つの研究を行った.第一はアメリカのデータを用いた研究である.この研究では主に以下の点を明らかにした.第一に,先行研究と同様,大学進学時に金銭的な理由で進学をあきらめた人の割合が若い世代で高いこと,第二に,親の経済水準が高いと進学をあきらめた人の割合が低いこと,第三に,子どもの頃の経済水準と現在の経済水準の差と学歴との間に正の関係があることが明らかとなった.この結果は,大学進学が世代間社会移動性を高めたことを示唆している.同様の分析を日本のデータを用いて行い,概ねアメリカと同様の結果を得た.今年度は,これまでに指摘された研究の問題点を克服するために,新たにデータを収集して分析を進めた.
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