本研究の目的は,政府が就労可能な低所得者にどのように所得再分配すればよいのかという問題を理論的に検討することである。グローバル化の進展や非正規労働など雇用形態が多様化する中で,低所得者向けの政策を再考する必要がある。そこで本研究では,家計の労働供給行動として就業選択行動を採用した最適所得税モデルを構築し,誘因両立的な所得再分配政策を提示する。 平成29年度は下記について検討した。 1.平成28年度に行った家計が異質な労働生産性と労働選好を持ち,さらにその両方にショックがある2期間モデルでの年齢に依存した所得税の分析について改訂作業をすすめた。“Optimal age-dependent income taxation in a dynamic extensive model: The case for negative participation tax to the young people”(片岡孝夫氏との共著)として論文にまとめ,International Symposium of Urban Economics and Public Economics(大阪大学)で報告した。さらに,学会報告での議論や意見交換を踏まえ,労働生産性と関係したtaggingという文脈で年齢を位置づけるように検討を行った。なお日本経済学会2018年度春季大会での学会報告にエントリーし,発表が確定している。今後,海外雑誌への掲載に向けて投稿を行っていく。 2.労働需要側の要因を考慮するために,家計が就業したくてもできない非自発的失業を考慮したモデルを検討した。政府の政策手段として参加税と求職活動を条件としたワークフェアを採用したシミュレーション分析を行い,それらが代替的であるという暫定的な結果を得ている。
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