本研究課題の目的は、公的年金制度をはじめとする公共政策が持つ所得再分配機能について、夫婦の交渉による家計内資源配分に焦点を当てて理論的に解明することであった。この目的を達成するため、公的年金政策をはじめとする世代間所得再分配政策分析に夫婦間交渉という意思決定プロセスの導入を図るための理論モデルを構築した。世代間問題を扱うモデルに、夫婦の交渉による家計内資源配分を取り入れた理論モデルによって、世代間および世代内の再分配政策に対する家計の反応や厚生に与える効果を議論することができた。そして当該研究はCigno et al. (2017)として、海外査読付学術誌に掲載された。 また、高齢者の社会保障を考える上で重要な、家族によるインフォーマルケアに関する理論分析も行った。具体的には、高齢者の親の介護を子世代の兄弟のうち誰が担うかという問いに対して、新たな知見を得た。本研究はKomura and Ogawa(2017)として海外査読付学術誌で発表している。当初の目的にあった理論分析に限らず、公的年金制度や引退期を意識した私的年金制度と夫婦の資源配分に着目した実証分析も複数行い、それぞれ国内学術誌で発表している。この実証分析の研究成果はその内容が評価され、日本保険学会賞受賞に至った。 学会報告については研究期間中に国際学会で8回、国内学会で1回、その他研究集会で6回行っている。研究課題の成果を報告するアウトリーチ活動として、一般向けの講演も行った。
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