令和元年度は,慶應義塾大学が実施する『日本家計パネル調査(KHPS)』のマイクロデータを用いて分析を行った「睡眠時間が賃金率に与える影響」に関する研究について,その成果を学会で報告するとともに,ディスカッションペーパーとしてまとめた.そして,査読付き国際学術雑誌に投稿するための作業を完了した.
加えて,総務省統計局が2016年に実施した『社会生活基本調査』の調査票情報を用いて,高齢者の睡眠時間が健康状態に与える影響を分析した.具体的には,調査対象者に対して特定の日の時間配分を尋ねているタイムユースサーベイの特性をいかし,60歳以上の高齢者について,一日の睡眠時間がその人の健康状態に与える影響を分析した.なお,調査回答日の行動が日常と大きく異なる可能性を除外するために,「ふだんの日」と「休みの日」のみを分析対象とした.計量分析では,欠落変数バイアスや健康状態から睡眠時間への逆の因果関係などの内生性を考慮するために,調査対象者が居住する市区町村の「日の入り時刻」の年平均値と「回答日の行動の種類」という情報を操作変数に用いた.その結果,1日の睡眠時間の増加がより健康になる確率を高めることを示した.男性と女性の時間配分の違いを考慮するためにサンプルを男女別に分けた場合でも,男性・女性ともに同様の効果が確認された.高齢者の平均的な睡眠時間は年々減少傾向にあるが,これらの結果は健康状態を改善する働きを持つ睡眠の重要性を指摘している.
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