研究課題/領域番号 |
15K17084
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
座主 祥伸 関西大学, 経済学部, 准教授 (40403216)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 担保法制度 / 法と経済学 / 法とファイナンス / 起業家精神 |
研究実績の概要 |
本年度は、担保制度の差異が起業行動に与える影響について基本的考察を行った。担保には、資金提供によって得られる財産に担保を設定する内部担保と、資金提供以前から存在する財産に担保を設定する外部担保がある。この内部担保に関する法制度は、次の二つの制度に分類することができる。 一つは、米国Uniform Commercial Code (UCC)を代表とするような事業の資産全体を「包括的」に担保とすることができる floating charge が認められている制度である。もう一つは、日本やドイツのように登録できる担保の種類は厳格に法で決まっており、包括的な担保設定が認められておらず個別財産にそれぞれ担保を設定する制度である。これらの特徴をモラルハザードの分析するコーポレートファイナンスの標準モデルに組み入れ、基本的考察を行った。多くの先行研究では、外部担保の考察が主になされてきた。モデル上、外部担保は参加制約と誘因両立制約に影響を与える。一方、内部担保は参加制約には影響を与えるが、誘因両立制約には影響を与えない。このことは、内部担保の制度の違いが参加制約を通して当事者の決定に影響を与えることを意味している。 以上の設定のもと、本年度得られた結果は次の通りである。① 返済額(元本+利子)に関して、floating charge のない国の起業家はより多く支払わなければいけない。② 外部担保に関して、floating charge のない国の起業家はより多く拠出しなければいけない。これらの結果から次の重要な結論を導くことができる: ③ floating charge のある制度下の起業家は、起業をするインセンティブがより高い。これは、起業家精神を促進する重要な要素として、法制度(特に担保制度)が重要であることを意味する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基本的な分析と興味深い結果を得ることができ、おおむね順調に研究を進めることができていると思われる。経済学的に法制度の本質的な理解は困難であるが、何人かの法学者からコメントやアドバイスをもらうことができたことは大きな収穫であった。上記の結果をいくつかの研究会等で報告し、もらったコメントを基に改訂を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
上記の基本的結果をまず論文としてまとめ、改訂作業を進める。その後雑誌論文としての出版を目指し、投稿をする。並行して上記の基本的分析の拡張を行う。具体的には、追加的な設定(担保価値に上限制約がある場合、追加融資を考えた場合、複数の債権者がいる場合等)を取り入れた分析を行う。上記で明示的に考察されていない米国UCCの担保制度の特徴として、将来得られた財産も(契約の初期時点で)担保とすることができる包括性が挙げられるが、この特徴は新しい製品開発や知的財産開発の文脈では重要である。なぜなら現在ある財産だけではなく、(今はないが)将来生まれる可能性のある財産の担保化を考えることは、事業家自身の開発努力に与える可能性だけではなく、投資家の事業を観察または評価する努力に与える可能性もあるからである。この点についても分析する予定である。
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