研究課題/領域番号 |
15K17085
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研究機関 | 国立社会保障・人口問題研究所 |
研究代表者 |
安藤 道人 国立社会保障・人口問題研究所, 社会保障基礎理論研究部, 研究員 (10749162)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 自治体病院 / 民間病院・クリニック / 地域医療 / 差の差法 / イベント・スタディ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、介護・医療施設の立地や廃止の計量経済学的分析を妥当性の高い統計的因果推論の手法を用いて実施することである。民間の介護・医療施設の立地や廃止の決定は検証対象である社会経済的アウトカムに対して内生性が強いイベントであるため、まずは公的な介護・医療施設の大規模な立地や廃止の特定を試みた。介護施設については介護サービス施設・事業所調査、病院施設については各種統計資料や行政資料を用いて大規模な立地・廃止イベントの特定を選定した。 その結果、介護施設については介護サービス施設・事業所調査の不完全性や立地・廃止のサイズなどにより有効なイベント選定が難しいことが分かったため、まずは地域社会へのインパクトがより大きいと考えられる自治体病院の大規模な廃止・縮小の効果を検証することとした。まずケーススタディとして、大規模な自治体病院の廃止・縮小事例として置賜病院の整理統合、夕張市立病院の診療所化、銚子市立病院の休止を選定し、別途収集した医療施設調査に基づく病院・診療所アドレスよりそれぞれの自治体病院の立地自治体およびその近隣自治体における病院・診療所の地理的分布を把握した。その上で、銚子市立病院の休止前後の近隣病院における外来・入院患者数や医師・看護者数、近隣地域の年齢階層別の人口変化、公示地価がどのように変動したのかを差の作法を用いて検証した。これらの検証は途上のものであり、今後、対象ケース拡大や分析精緻化を進める。 また計量分析の方法論についても、GIS統計や地域データ等を活用した政策評価・因果推論手法や、それらを用いた妥当性検証手法について最新の研究動向をフォローし、関連研究プロジェクトにおける応用と並行して、その拡張的応用を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初はデータ整理がやや遅れていたが、Estat APIの活用による自治体・GISデータ収集が後半に前進したため、遅れを取り戻している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、現在行っている夕張、置賜、銚子のケース分析を進めるとともに、自治体病院の廃止・縮小事例を全国レベルで整理・数値化し、GIS統計を用いたケース事例分析的な計量分析と病院・診療所パネルデータを用いた計量分析を並行して進めて行く。 また現在、自治体病院の廃止・縮小のインパクトについてのこれまでの学術研究レビューも行っているが、日本の民間病院・公立病院の混合体制という特性を生かしながら国際的に貢献度の高い研究を行えるように、分析フレームや仮説構築の精緻化を進め、英語論文化を目指す予定である。それに加えて、事例分析として興味深いものについては別途日本語での論文化を進め、よりドメスティックな政策研究コミュニティに対する貢献も検討する。 さらに、これまでの文献調査やデータ整理の中から、自治体病院の廃止・縮小ではないものの興味深い医療供給に対する供給ショック事例を見つけているため、そのような事例を活用した分析を派生的な研究プロジェクトとして実施していく予定である。 加えて、近年の統計的因果推論の理論的・手法的な学術的発展を踏まえて、イベントスタディや地域パネルデータ分析における分析手法(とくに妥当性や頑健性の検証手法)の拡張を模索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
リサーチ・アシスタントへの謝金支払いが想定よりも少なかったのが主たる理由である。これは、想定していたリサーチ・アシスタントの雇用が計画よりも後ろ倒しになったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
当該年度で計画していたリサーチ・アシスタントへの謝金支払い分はその分、次年度の謝金支払に当てる予定である。
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備考 |
本研究プロジェクトと同様、GIS統計を用いた疑似実験アプーチに基づくイベントスタディの計量経済学的研究を行っている。スウェーデンの地域データおよび住居データを用いた住宅価格動向に関する研究であり、研究デザインおよび分析手法が本研究プロジェクトと類似しているため、本研究プロジェクトの知見を、主に分析手法面において生かして研究を進めている。
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