公開後の長期株価パフォーマンスの低迷は、新規株式公開(initial public offering: IPO)を巡る特徴的な事実の1つである。この現象を説明する仮説の1つとして、投資家の異質的期待と空売り制約を前提とする理論がある。本研究の主たる目的は、日本における入札方式のIPOから得られるユニークなデータを用いて、この理論が公開後の長期株価パフォーマンスの低迷を説明できるかを検証することである。前年度までの研究で、公表される入札情報から投資家の意見分布を推定し、推定された分布から楽観的な投資家の割合を算出した。そして、異質的期待と空売り制約の理論が予測する通り、楽観的な投資家の割合が高いほど、公開後の長期株価パフォーマンスが悪くなるのかを検証した。検証の結果は、異質的期待と空売り制約の理論の予測と整合的なものであった。平成28年度は当初の予定通り、論文のドラフトの改訂と分析の拡充を行い、最終原稿を作成した。ドラフトに対して、理論の前提である空売り制約が実際に存在するのかが不明との指摘を受けたため、入札方式が使用されていた時期における空売り制約の状況を調査した。そして、制度上の理由から公開初日において空売り制約が存在したことを確認した。また、結果の頑健性に関する指摘を受けたため、複数の期間について長期パフォーマンスの計測を行った。そして、期間にかかわらず、異質的期待と空売り制約の理論の予測と整合的な結果が得られることを確認した。これらの分析を加えた最終原稿を国際査読誌に投稿した。この最終原稿は、平成28年度中の掲載決定には至らなかったものの、ディスカッションペーパーの形で発表した。
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