研究実績の概要 |
本研究の目的は,為替取引の状態(活況度合い,レジーム)が為替価格形成に及ぼす影響を,チックデータを用いて流動性の観点から調べることにある.高頻度為替の価格形成には,経済のファンダメンタルズの変化よりも取引量や指値板情報が大きな影響を与えることが知られており,Mancini,L. et al.(2013)はネットの売買取引量と価格変化率の間に1 つの線形関係を仮定して流動性指標を構築,価格形成メカニズムを実証研究した.本研究はこの先行研究をベースにしつつ,状態を精緻に分類し,それぞれの流動性の変化を詳細に調べることを目標とした. レジーム検出のためのクラスタ点過程モデルとして,我々は Shibata(2006) をベースにした新たクラスタ点過程モデルを開発した.Shibata (2006) のモデルでは,各クラスタごとに約定発生が定常ポアソン過程に従い各時点での約定価格の対数差がラプラス分布に従う仮定をおいていたが,本研究ではそれを一般化し,約定発生間隔を一般化逆ガウス分布,約定価格の対数差を一般化Hyperbolic分布とした.こうすることで Shibata(2006) のモデルは,我々の提案するモデルの特殊例として包含され,多様なデータに対してより柔軟なモデルの当てはめが可能となった.この成果は公刊論文として発表している. 取引量と流動性に関する研究は当初の目論見とは大きく異なり,チックレベルまでミクロに調べていくと取引量の多寡と価格の変化の間には,従来の研究で言われているような明確な関係はあまり現れていないことがわかった.そのため,日次データのレベルでは有効なMancini,L. et al.(2013)の流動性指標も,チックレベルでは必ずしも有効に機能しないことが明らかとなった.現在,この詳細を論文としてまとめており,2017年中に専門雑誌に投稿する予定である.
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