本研究は、国際金融市場を通じた資本フローが新興国経済、特に労働市場と物価に対して直接的・間接的に与える影響を理論と実証の両面から明らかにし、こうした脅威に直面した経済が採るべき金融政策についての示唆を得ることを目的とするものである。とりわけ、資金流出による交易条件の変化が失業率へどのような影響を与えるのかに焦点を当てる。 平成30年度は期間延長であるため、前年度に予定していた頑健性のテストを主として行った。構築した失業を考慮した開放経済型の動学的一般均衡モデルの摩擦を変えて検証を行ったところ、既に得られた結果から定性的には大きな変化は見られず、一時的なショックによる交易条件の変化であっても、低い為替の浸透率が実質賃金の調整を遅らせることで国内労働市場では持続的に失業率を高め、経済厚生を悪化させることが確認された。これは輸入価格の調整が遅い場合、 消費者物価水準の調整も十分に起こらないため、 実質での賃金調整が遅れることで実質賃金が高止まり、 労働市場で需給ギャップが生じたままになってしまうことによる。 こうした結果は、 労働市場の摩擦となっている実質賃金の調整の遅れとそれにより発生する失業に関し、 開放経済下では、名目賃金の粘着性のみならず、 為替レート変動の浸透率も寄与していることを示唆するものである。
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