研究課題/領域番号 |
15K17099
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小島 庸平 東京大学, 経済学研究科(研究院), 講師 (80635334)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 東京市 / 都市家計 / 金融 / 高利貸 / 俸給生活者 / 庶民金融 |
研究実績の概要 |
これまでの研究では、小口貸金の供給主体となっていた地主や商人の持つ「在来的金融技術」の重要性が指摘されてきたものの、その実態は必ずしも明らかにされてこなかった。本研究では、情報の非対称性とそれに基づく道徳的危険を制御するための金融技術は当該地域の社会関係の性格を色濃く反映していると考え、都市と農村における小口金融の実態を、貸倒リスクの抑制と債権保全という視点から比較しつつ検討する。 本年度は、都市における小口金融の実態を、各種の統計書や家計調査などを用いて分析し、論文を取りまとめた。戦前日本の都市部では、信用調査機関の未整備もあって、債権保全のための金融技術はなお不十分なものにとどまっており、デフォルトのリスクと回収コストの高さから個人貸金業者による貸金はしばしば高金利であった。1927年の金融恐慌を契機に預金を集中させ、30年代半ば以降の低金利の中で放資先を模索していた大手都市銀行は、一部では貸金業者や質営業者とも取引関係を持ち、日本昼夜銀行を除き実現はしなかったものの、自ら小口信用貸付に乗り出す計画をも検討するに至る。とはいえ、大銀行は小口融資には終始慎重な姿勢を崩しておらず、景気回復に伴う質営業者の増加も、基本的には銀行との直接的な取引関係の外部で実現したものであった。戦前日本の都市における俸給生活者や労働者を相手とする小口信用貸付の展開は、金融技術上の限界もあり、戦後の消費者金融と比較すればなお萌芽的なものにとどまっていたのである。 以上の都市部に関する分析に加え、本年度は長野県東御市和地区に残された深井功文書の整理を進め、現在約1,000点の目録化・保存措置を終えた。深井家での調査は、2016年度においても継続予定である。深井は長野県信用組合連合会会長や産業組合中央金庫監事を務めた組合金融の重要人物であり、その調査は2016年度においても継続する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、①産業組合における信用審査の実態解明。②地主における小作人管理と貸金業の実証分析、③都市家計の金融行動の検討という3つの課題について、3年間で研究を遂行することを予定している。このうち、本年度は③についておおよその目処をつけることができ、2016年6月の金融学会金融史部会でその総括的報告を行う予定である。①、②についても、深井功文書の整理が進み、特に①について信用審査にかかわる論文をすでに脱稿し投稿中であるため、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、上記の3つの研究課題のうち特に②について分析を進める。具体的には、深井功文書の整理の完遂と地主経営部分の本格的な分析、および新たに有用性が確認された長野県埴科郡旧五加村文書を利用した個人間の資金貸借ネットワークにかかわる分析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費(書籍)の購入費用見込みが想定より下回ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に予定している史料整理の消耗品に充当する予定である。
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