研究課題/領域番号 |
15K17099
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小島 庸平 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 講師 (80635334)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 金融史 / 産業組合 / 信用審査 / 小諸藩 / 小諸銀行 / 地方銀行 / 農村金融 |
研究実績の概要 |
本年度は,次の3点について成果があった. 第一に,前年度においてすでに論文として公表した都市小口金融に関する研究を,日本金融学会の金融史パネル「都市における中小企業金融・小口金融とその担い手-戦前の大阪・尼崎・東京-」にて報告し,他都市との比較を踏まえて東京における小口金融の特徴を改めて検討した. 第二に,社会経済史学会においてパネル「『途上国』日本農業の開発経済史」で戦前日本の産業組合における信用審査に関する報告を行った.その成果は高橋和志氏(上智大学)との共著論文として『アジア経済』に投稿し,すでに掲載が決定している. 第三に,長野県小県郡和村(現東御市)において産業組合の設立を主導した深井功に関係する史料の整理を行い,遺族の承諾を得た上で2017年3月に東御市へ寄託した.深井功は,40年以上にわたって和産業組合の組合長を務めたばかりでなく,産業組合長野市会副会長・長野県信用組合連合会会長・産業組合中央金庫監事などの産業組合関係の要職や,郡議・県議・衆院議員等を歴任した人物である.深井の遺した史料には産業組合史研究や経済史研究にとって貴重なものが数多く含まれており,助成を受けた研究費を利用して適切な保存措置を講じた.さらに,整理の過程で深井家の蔵に残されていた近世小諸藩の家老職を務めた牧野八郎右衛門家文書も発見され,その整理も開始している.牧野家文書には近世期だけでなく近代の小諸銀行に関する史料も数多く含まれており,今後の地方金融史研究に大いに裨益することが期待される.こちらも深井功関係史料と併せて目録を作成し,2017年度中に公開する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の開始にあたって掲げた目標は,①農村産業組合における信用審査,②地主の金融技術,③都市中間層の小口金融の実態の3点について明らかするすることであった.現在,③と①については論文を完成させ,②についても史料整理に一区切りがついたことから,次年度中には一定の成果を生むことが期待される.さらに,前述の牧野家文書が発見されたことは,地方金融史に深く関連する本研究の課題にとっても意義深いもので,当初の計画以上の成果を挙げることが出来たと言える.
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今後の研究の推進方策 |
2017年度は,本研究の最終年度である.この1年で,以下の3点の成果を挙げることを目指したい. 第一に,地主の金融技術について明らかにすることである.すでに史料の整理を行った深井功家文書には,小作料収取に関わる地主経営文書や,貸金業を行っていた際の貸金台帳などが残されており.地主による金融取引がいかなる面的広がりを持ち,様々な個性を持つ債務者とどのような金銭貸付契約を取り結んでいたのかを明らかにすることができる.この点をすでに明らかにした産業組合における信用審査と結びつけながら検討することで,地主の有していた「在来的金融技術」の実態を吟味してみたい. 第二に,上の成果も含む単著を公刊することである.本年度中には,これまで筆者が進めてきた労働・金融・土地の3つの領域にまたがる研究を一書にまとめる予定であり,本研究の課題遂行はその重要な一環を為している.本研究の成果を著書として広く公開することで,成果を社会に還元することを目指したい. 第三に,深井功家文書の目録を,牧野八郎右衛門家文書と併せて刊行することである.深井家の所在する東御市では,2017年度から市立文書館の設立が進められることになっており,本研究で整理した史料の受入に際しては東御市役所生涯学習課の堀田雄二氏が多大な便宜を図ってくださった.地域に研究の成果を還元すべく,まずは目録を刊行することで閲覧・利用の基本的な環境を整備する.
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