戦前の繊維産業にみられた繊維資源の有効利用の取り組みについて,副蚕糸や絹糸紡績屑を利用した再生絹糸の開発を事例として明らかにするため,平成27年度に続いて,平成28年度も史料収集を行った。具体的には,再生絹糸の開発を積極的に進めていた星野絹糸化学研究所,鐘淵紡績,大阪工業試験所を中心とする1次史料の収集に努めた。しかし,再生絹糸は大規模な工業生産に至らず,その開発から撤退することも多かったため,その1次史料はあまり残されておらず,新聞・経済雑誌・学術誌・特許などの再生絹糸の記事や研究報告などを収集することによって補うことにした。これらの調査によって,再生絹糸は,1930年代前半の蚕糸業の停滞と化学繊維工業の発展という時代の中で,付加価値の低い副蚕糸や絹糸紡績屑といった繊維資源の有効利用と人絹糸を超える糸の生産を両立させるという技術的・経済的な意義をもって誕生したこと,1930年代中頃になると,生糸や絹糸紡績糸の価格低下や人絹糸の品質向上のためにその開発の意義が失われたこと,さらに開発の停滞によって品質向上や生産コスト削減が思ったように進まず撤退に至ったことなどが明らかになった。 この成果の一部は,すでに平成27年度に紡績企業史研究会(第69回)で研究報告を行っており,繊維産業史の専門家から多くの有意義なコメントをもらうことができた。平成28年度には,それらのコメントを活かして論文を執筆・投稿し,『経済史研究』(大阪経済大学日本経済史研究所)第20号に掲載された。また『国民経済雑誌』(神戸大学経済経営学会)第214巻第1号に掲載された論文にも,成果の一部が反映されている。
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