補助期間の延長をおこなったため研究計画の5年目となった最終年度は、国内外での基礎的な統計収集とその入力作業の残りを実施するとともに、満鉄社線だけではなく、満洲国有鉄道における貨物輸送の入力をおこない、満洲国全体の鉄道輸送の総合的研究の仕上げとなる分析をおこなった。本格的な分析と成果公表は今後の課題であるが、分析の結果、満洲国の経済構造が南部と北部で大きく異なり、特に北満洲の日本帝国としての一体化の遅れと、他方での南満洲に対する補完的機能があるという見通しを立てることができた。 また満鉄の対朝鮮連絡輸送の内、羅津経由の貨物輸送の内容の時期別変化と、羅津の都市としての「成長」を分析した論文を、古田和子編『都市から学ぶアジア経済史』(慶應義塾大学出版会)に収録した。内容は次の通りである。羅津は朝鮮半島東北部に位置する都市であるが、これまでの研究では日本-満洲間の連絡ルートの経由地として取り上げられており、朝鮮社会・経済との関係のなかで論じられることは少なかった。しかし鉄道輸送の内容を分析してみると、鉄道や港湾の経営が満鉄と一体化していく一方で、必ずしも満洲地域との輸送関係が強まったとはいえなかった。また羅津自体は,一時的に人口が減少し,都市開発の不十分さが見られた時期もあったが,戦時期には再び人口も増加し,食糧需要の増加とそれに対する朝鮮他地域から米の供給がみられるなど,朝鮮他地域との関係を形成しながら都市としての特徴を示すようになっていったといえる。
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