本研究のテーマは近代中国の品質マネジメントシステムと制度設計に関する実証研究である。本研究では、近代中国の主要輸出品の品質を担保する制度の変容過程及び形成過程の分析を通じて、国民国家の形成したフォーマルな制度の効果及びその制度と市場参加者 によるインフォーマルな制度の関係を検討し、インフォーマルな制度の設計に注目しながら近代中国における制度設計を実証的に明らかにすることを目的としている。本研究で示した品質に関する制度の分析を通じて近代中国の経済成長の制度的要因の一端を明らかに する。 本研究では、フォーマルな制度とともにインフォーマルな制度を研究対象としている。この両者の関係を検討することは非常に重要であると考える。例えば、現代社会は必ずしもフォーマルな制度だけで成り立っているわけではなく、インフォーマルな制度の持つ役 割もまた重要である。しかし、後者の役割は社会や市場の中では非常にみえにくい。本研究の研究対象地域である中国は明清期以降、インフォーマルな制度によって支えられながら経済発展を続けてきた。そして、海外からフォーマルな制度が導入され始めた20世紀初頭においてもインフォーマルな制度が社会の多くの部分、例えば、市場における取引等を支えてきたと思われる。そのため、近代中国経済史研究は、こうした制度の存在を明らかにするとともに、二つの制度の関係を考察するのに最も適している。本研究の成果は、市場で発生している現代的な問題を検討する際に重要な知見を提供し、市場における不正問題等の今日的解決に寄与することにあるであろう。ここに本研究の意義がある。
|