H29年度は初年度から継続してきた①先行研究サーベイ、②定性的事例研究、③アンケート調査の設計を基に、海外子会社マネジャーのトップ・マネジメント・チームの特性やチームのプロセスと海外子会社の企業家活動成果との関連性を調査・分析した。
調査方法は、研究計画段階で検討していた大規模サンプリングによる質問紙調査を変更し、質問紙の項目に基づいた半構造的インタビュー調査の手法を採用した。研究手法の変更が行われた理由は、テスト調査段階の在外拠点への質問紙調査の回答率が低く、マネジメント層メンバーからの回答収集が困難と判断されたからである。調査では日系多国籍企業の海外R&D投資先として重要である中国市場に焦点を当て、R&D機能をもつ在中拠点のトップ・マネジメント・チームメンバーに対する半構造的インタビュー調査を実施し、8社の回答を得た。
集計した内容を分析した結果、全体的な傾向として在中R&D拠点のトップ・マネジメント・チームの多様性は属性・能力の両側面において依然として低い傾向にあった。ただし、メンバーの能力の多様性が相対的に高い拠点では、社内ネットワークだけでなく、現地アクターとの対外的なネットワークの構築が進んでおり、業績面(現地市場向け適応・現地市場向け新製品開発)での貢献も相対的に高いことが示された。これらの分析結果から、トップ・マネジメント・チームのメンバーが多様な経験や能力を蓄積している在中R&D拠点は対外的なネットワークが構築し、多様なアクターとの相互作用を通じた知識の獲得や対内外正当性の構築が進んでいる可能性が伺えた。また、その結果として、相対的に高い業績を達成している可能性が伺えた。サンプルが小さいため、定量的な因果関係や条件ごとの関係性を検証することはできなかったが、日系多国籍企業の海外R&D拠点のマネジャーの特性と企業家活動成果の実態を把握することができた。
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