平成28年度の成果を2点挙げる。第1に,平成27年度に引き続き事例調査が進展した。シェアリングサービスの事例と賭博産業の事例に関して調査を進めることができた。シェアリングサービスのうち,民泊に関する事例研究は平成28年に2本の紀要論文で報告済みである。プラットフォームサービスのもたらす外部性の問題に一般化することが今後の課題である。第2に,研究で用いる諸概念の整理を進めた。鍵概念の1つである外部性概念の取り扱いについては整理した上で投稿し,査読論文として採択された。その他,組織の意思決定原理についての整理を進めている。 また,研究課題として想定していた企業家の態度変容がそれほど大きな問題ではないことが明らかになった。計画当初は企業家の属する規範と行政官の属する規範を対比させ両者を相当異なるものとして想定していたが,事例調査と各種既存研究を勘案した結果,この対立図式は適切ではないとの結論に至った。(日本の)企業家の場合,組織内部での意思決定や業界団体での合意形成など,社会的合意形成に基づく意思決定を為す機会が多く存在しており,企業家はそれらの経験の類推で行政への陳情の方法についても早期の段階で学習していくため,多くの事例で企業家の内部規範はさほど大きな問題とならなかったのである。 逆に,全く学習や態度変容をみせずに,逸脱行動や違法行為を繰り返す企業家の場合も存在する。このような場合,その企業家自身が学習しなくても,他者がその逸脱行動を観察し事業機会を見いだすことがある。この場合も社会全体としては学習が促進されていることから,研究計画で想定していた,企業家の内部規範が原因となって政策的課題が解決しないケースにはあたらない。以上の整理により,当初の研究計画で懸念されていた課題が実際上問題ではないとの判断にいたり,本研究課題は予定よりも1年半早く終了とすることとした。
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