平成29年度は、昨年度までの作業に続き(1)「専門家」と企業から構成される製品開発チームが抱える組織的課題とイノベーションとの成果との関係について、理論的な枠組みから改めて検討すると共に、(2)これまでに調査した製品開発チームに関して追跡的にデータの収集を行った。さらに(3)これまでの研究成果から新たな分析視角の必要性が生じてきたことから、新たな事例ならびに理論的観点から分析作業を進めた。こうした作業の中で明らかにされてきたポイントは、プロジェクトを主導的に進める専門家の役割アイデンティティが、イノベーション活動への関与の仕方と関係があること、そうしたアイデンティティは、専門家のキャリアの中で段階的に変化・形成されていくこと、そのプロセスにおいては他プロジェクトの経験が少なからず影響を与えうること等である。このような点について、理論と実証の両面から検討を続けたのか本年度の中心的な作業であった。とりわけ、理論的な視点として、個人レベルにおける役割アイデンティティに関する諸研究や、専門家コミュニティ内において自身の企業家的活動を正当化していき、活動として制度化していくプロセスを新制度派組織論や政治学の諸理論を参考にしながら整理した点が特筆すべき作業であった。加えて、本年度は新たな視点から研究を進める必要性が明確にされた。具体的には、専門家が関与しながら開発された製品は、他のそれとは異なる経路やメカニズムを通じて普及していく可能性があり、その点を製品開発プロセスと関連付けて検討する必要性である。そこで、本年度は、こうした問題に取り組むための新たな事例を探索的に検討し、それを研究成果としてまとめてきた。
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