本研究の目的は,近年の日本企業の人事処遇制度の実態を把握し,特に従業員の知覚する公正感に資する人事処遇制度について検討することである。具体的には,企業の人事管理における処遇の公正性はどのように位置づけられ,どのように扱われてきたのか。あるいは,実際の従業員が処遇の公正性をどのようなものと捉えているのか。本研究ではこれらの課題について,明らかにすることを目的としてきた。 最終年度の平成29年度は,当初の予定通り,先行文献の渉猟をもとに質問項目を作成し,正社員を対象とした質問紙調査の実施とその分析結果をまとめ,論文や学会報告を通じて研究成果の発表が行われた。研究の結果,時間展望志向,倫理的リーダーシップ,そして処遇の比較対象といった要因により従業員の公正感が影響され,更にそうした関係は例えば正規非正規といった雇用形態によっても変容しうることが明らかにされた。 本研究では特に分配的公正理論の視点から人々の公正感の下位概念を規定し,マネジメントの観点から公正感を取り扱ってきた。その中で,特に上司部下間の関係性が停滞している際には,上司による倫理的な行動が公正感を高めることから,処遇に不公平感が蔓延している際の直属上司の行動が重要となる。個人の志向としては,過去を肯定しつつ未来をもしっかりと見据えるような時間展望を持つ従業員ほど,現在の処遇に公正性を知覚する傾向がある。以上のような分析結果から,目先の処遇に囚われず,長期的な視野から前向きな展望を持てるよう涵養するような人事処遇制度や,直属上司による人材育成に展開されていくことが,従業員の公正性の観点からは求められることが示唆されている。
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