2018年度は、サービス間の価値創出メカニズムの比較研究をおしすすめることと、会話分析研究の分析手法の整備を両輪で進め、サービス提供者と消費者の相互行為を通じた価値共創プロセスについての理解を前進させた。具体的には、2018年度はサービス提供者が消費者に問いかけ、消費者が応じるやりとりについて分析を行った。透析クリニックのデータにおいては、看護士が患者に血圧測定値を伝え、患者がその意味を受け取るやりとりを扱った。そこでは看護士の血圧測定値の伝え方の細かな違いによって、患者がそれを単純に理解して受け入れるべきか、あるいは患者の側がその値に込められた意味(急激に上昇ないし下降しているなど)を解釈し、患者の側も医療の意味づけに参加するかが体系的に使い分けられていることが観察された。その一方で、江戸前鮨屋の接客データにおいては、職人が客に何を頼むかを問いかけ、客が品を選んで注文するやりとりを扱った。職人は客が注文に時間をかけそうな時、手元の別の作業に従事しつつも時折客の様子を伺い、客に品を選ぶ時間を与えていることがわかった。この二つの分析から、サービス提供者の問いかけ方によって、消費者がどのような立場からサービスに参加し、価値共創に携わっていくか(医療の意味づけに参加する患者、時間をかけて品を選ぶ客)が条件づけられる場合があることが明らかになった。またこれを分析する手法としての会話分析について、相互行為の中での身体動作の働きや人工物の使い方などの分析手法を整備し、広く紹介するとともに、上記の分析に活用した。
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