最終年度ではまず、文化変容した消費者が一般的に社会的距離が遠いとされる対象への寄付をどのように捉え、評価するのかについて経験的研究を重ねた。その際、対象との心理的距離の遠近にともなう認知レベルの変化を説明してくれる、解釈レベル理論を援用することで、マーケティング・コミュニケーション研究への示唆を模索した。一連の実験結果から、文化変容の度合いが高まるほど、社会的距離の遠い寄付対象との心理的な距離が縮まり、解釈レベルが低次に導かれるため、具体性の高い情報の方がそれが低い情報よりも評価が高まるというメカニズムが明らかになった。次に、外国に対する相反した態度が外国製品の評価や購買意図に及ぼす影響について、海外の消費者を対象に検討した。いくつかの先行研究では、外国に対する相反した態度は互いに独立した概念であり、それぞれ異なる効果をもたらすことが示されてきた。しかしながら、それらの交互作用については取り扱われておらず、本研究では単純傾斜分析を用いることで、カントリー・バイアス間の交互作用を検討した。分析結果から、文化変容の度合いが高まるほど、外国に対するネガティブな認知が抑制されることが明らかになった。 三年間に渡る一連の研究によって、文化変容とその先行要因との関係性は線形ではなく、互いに影響し合うものであり、しばしば内集団に対する帰属が高まるなどして調整されることが示された。また、文化変容は静的ではなく、財やサービスの利用を通して変化し続ける、動態的な側面あることが示唆された。訪日外客や移民が増加し続ける我が国において、外国人の消費者行動を捉える鍵概念としての文化変容はますます注目を集めてくるものと推測される。文化変容をマーケティングのコンテクストから検討した研究は未だ少なく、今後もさらなる経験的な検証が求められるであろう。
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