研究課題/領域番号 |
15K17158
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
吉田 智也 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (90456286)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 公会計 / 概念フレームワーク / 財務諸表 / 構成要素の認識 / 構成要素の測定 / 地方公会計 |
研究実績の概要 |
本研究は、政府会計に対して、体系的な複式簿記を何のために導入し、結果としてどのような財務諸表を作成しようとするのか、作成された財務諸表は当初の目的を十分に果たしうるのかといった問題に、財務諸表の構成要素の定義とその認識・測定のレベルから検討するものである。 2年目の平成28年度は、引き続き、研究・調査の基礎となる資料・データを収集し、研究活動の基盤整備を行うとともに、収集した資料の分析を進めた。具体的には、文献渉猟による広範かつ多面的な知識の蓄積を行いつつ「概念フレームワーク」の全体像の描写に結び付けられるように、個々の概念書・討議資料等から理論・思考の抽出(洗い出し)とそこからの演繹的展開を行った。 つまり、公会計の基準設定機関ごとに策定が進んでいる「概念フレームワーク」の内容を、①財務報告の目的、②財務情報の質的特性、③財務諸表の構成要素の定義・認識・測定といった諸点において比較し、その異同点を明らかにすることで、公会計にとって固有の部分が何であるのか、公会計の財務諸表によって伝達すべき情報の本質はどのようなものなのか、公会計の財務諸表の種類はどうあるべきかを検討した。 昨年度に引き続き、米国における「概念フレームワーク」の整備状況に関して、米国政府会計基準審議会(GASB)が2007年に公表した『概念書第4号 財務諸表の構成要素』をはじめ、2014年の『概念書第6号 財務諸表の構成要素の測定』、2016年の『意見募集書 行政基金に関する財務報告モデルの改善』などが、主たる研究の対象となった。 また、わが国の公会計制度の改革の現状を把握するために、総務省が2015年に公表した「統一的な基準による地方公会計マニュアル」について、そこで示された具体的な仕訳例を素材として、企業会計でみられる複式記入の観点から分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究課題であった「国際的公会計概念フレームワークの分析」に関しても、おおむね順調に進展していると評価できる。 まず、昨年度の課題「米国における概念フレームワークの分析」に関して、残された問題点であった財務諸表の構成要素の認識論については、GASBが2016年に公表した『意見募集書 行政基金に関する財務報告モデルの改善』を通して、米国政府会計における発生主義概念を説明する「測定焦点」と「会計基礎」のうち、これまで利用されてきた「カレント財務資源(current financial resources)」の測定焦点に代えて、より短期的な観点からの報告を行うような諸提案がなされていたことを明らかにした。なお、『意見募集書』で提案された新たな認識アプローチは、(a)「近接期財務資源アプローチ(near-term financial resources approach)(近接期アプローチ)」、(b)「短期財務資源アプローチ(short-term financial resources approach)(短期アプローチ)」、(c)「長期財務資源アプローチ(long-term financial resources approach)(長期アプローチ)」の3つである。今後、これらのうちどのアプローチが公会計の基金財務諸表(fund financia statement)による情報提供としてふさわしいのかを分析しなければならないだろう。 また、わが国の公会計改革に関して、総務省が2015年に公表した「統一的な基準による地方公会計マニュアル」で示された具体的な取引例の複式仕訳が、企業会計における資金会計論の文脈で論じられた「資金計算書のための勘定組織」と非常に親和性が高かったことを明らかにした(日本簿記学会の自由論題報告にて報告済み、現在、論文を執筆中)。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の最終年度である平成29年度も資料収集と文献渉猟による広範かつ多面的な知識の蓄積を継続的に行うとともに、米国政府会計基準審議会(GASB)や国際公会計基準審議会(IPSASB)による会計・財務報告基準と会計実践について、その歴史的変遷に関する調査・研究を継続的に行う。具体的に、米国の政府会計・財務報告基準と会計実践については、その基盤となる「概念フレームワーク」やその前身となる会計原則等についての歴史的変遷に関する調査研究を行う。米国における政府会計は、19世紀末より徐々に発展を遂げてきているとされているため、その歴史的変遷において、政府組織においてどのような原理・原則のもとで、記録・計算・報告システムが構築されていたのか、さらに制度としての会計基準・原則がどのようなものであったのかを明らかにすることが研究の中心となろう。 また、IPSASBによる「概念フレームワーク」の検討およびGASBのフレームワークとの比較分析を行う。公会計改革に対して異なるアプローチをもつフレームワークの分析・検討を通じて、フレームワークとして備えるべき要件や公会計に固有の思考が明らかになり、わが国の改革についての示唆を与えることとなろう。 最終年度にあたり、本研究の総括も行う。さらに、「概念フレームワーク」が異なることで、具体的な計算書・会計処理がどのように変化しうるのかを検討し、どのような思考で制度設計を行えば、現場の抱える問題点が解決されうるかを問いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
各種の学会参加のための出張旅費が当初の予想よりも低く抑えられたため(開催地が年度初めにおいては未定であった学会にも参加したため)17,000円弱の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
主に、各種の学会参加のための出張旅費として前年度から繰り越された金額と合わせて利用する予定である。
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