本研究は、政府会計(公会計)に対して、体系的な複式簿記を何のために導入し、結果としてどのような財務諸表を作成しようとするのか、作成された財務諸表は当初の目的を十分に果たしうるのかといった問題に、財務諸表の構成要素の定義・認識・測定のレベルから検討したものである。 4年目の平成30年度は、引き続き、研究・調査の基礎となる資料・データを収集して、研究活動の基盤整備を行うとともに、収集した資料の分析を進めた。具体的には、文献渉猟による広範かつ多面的な知識の蓄積を行いつつ「概念フレームワーク」の全体像の描写に結び付けられるように、個々の概念書・討議資料等から理論・思考の抽出(洗い出し)とそこからの演繹的展開を行った。 つまり、政府会計(公会計)の基準設定機関ごとに策定が進んでいる「概念フレームワーク」の内容を、①財務報告の目的、②財務情報の質的特性、③財務諸表の構成要素の定義・認識・測定といった諸点において比較し、その異同点を明らかにすることで、政府会計(公会計)にとって何が固有の部分か、政府会計(公会計)の財務諸表によって伝達すべき情報はどのようなものなのか、その財務諸表の種類はどうあるべきかを検討した。 昨年度までに引き続き、米国における「概念フレームワーク」整備状況に関して、米国政府会計基準審議会(GASB)が公表した『財務諸表の構成要素』(2007)、『財務諸表の構成要素の測定』(2014)、『行政基金に関する財務報告モデルの改善』(2016)、『収益および費用の認識』(2018)などを、主たる研究の対象として、論文を執筆した。 また、わが国の公会計制度の現状を把握するために、総務省が2015年に公表した「統一的な基準による地方公会計マニュアル」とその後の公表資料について、そこで示された具体的な設例等を素材として、企業会計で利用される複式簿記との相違について分析を行った。
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