最終年度では,第1に,期待リターン(株主資本コスト)の推計に予想利益が活用されることを踏まえ,予想利益の正確度に関する論文を公表した。当該論文では,翌期の純事業資産利益率(RNOA),純金融費用率(NBC),財務レバレッジ(LEV)を別々に予測した後で,アドバンスト・デュポン・モデル[ROE=RNOA+LEV×(RNOA-NBC)]を利用して翌期ROEの予測値を求めることにより,ROE予測の正確度が高まることを発見した。また,経営者予想利益に基づくROEと上記の方法で予測したROEとの差は,経営者予想利益に含まれるバイアスについての情報を有することもわかった。これらの結果は,事業と金融の区別に基づいて組み替えた財務諸表の有用性を示唆している。 第2に,会計原則を考慮した期待リターン研究に関するレビュー論文を公表した。当該論文では,コロンビア大学のPenman教授が提唱したフレームワークに注目している。その特徴は,収益・費用の認識原則がリスクとその解消に依存していることに着目し,会計変数をリスクや期待リターンと結び付けようとする点にある。本レビュー論文では,上記のフレームワークの内容を日本語で詳細に解説するだけでなく,米国で行われた実証研究の結果も概観することにより,日本の会計・ファイナンス研究者や実務家に対して最新の情報を提供している。 第3に,会計原則の影響を踏まえたうえで,いわゆるバリュー株(高B/P銘柄)の将来リターンが高くなる理由を考察し,日本経営財務研究学会第42回全国大会で発表を行った。当該研究では,E/Pを所与としてB/Pが高くなるほど,翌期の平均リターンが高くなる一方で,2期先以降の利益成長率やその成長が実現しないリスクも高くなることがわかった。この結果は,日本市場におけるB/P効果がリスクに見合った合理的価格付けの観点からも説明できることを示唆している。
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