研究課題/領域番号 |
15K17168
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
矢内 一利 青山学院大学, 経営学部, 准教授 (10350414)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ラチェット効果 / 経営者予想利益 / 利益ベンチマーク / 報告利益管理 / 経営者報酬 / 役員賞与 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、決算短信における予想利益(以下では経営者予想利益とする)のラチェット効果が利益減少型の報告利益管理を引き起こしているかどうかを検証することを目的としている。本年度は、経営者報酬のベンチマークとしてどのような指標が用いられているかの検証、経営者予想利益の予想誤差を生じさせる要因についての検証、利益目標のラチェット効果の検証について、それぞれ先行研究のレビューをまず行った。その上で、東証1部・2部の上場企業の財務データを用いて、(1)経営者予想利益にラチェットが生じているかどうかの検証、(2)経営者報酬のうち、特に企業業績と関連がある役員賞与の額を決定する際のベンチマークとして、経営者予想利益、前期利益、利益額ゼロが用いられているかどうかの検証、(3)有能な経営者のインセンティブを引き出すような経営者報酬契約にするために、経営者予想利益のラチェットを考慮して、業績目標である経営者予想利益の水準の設定が行われているかどうかの検証を行った。 (1)と(3)については、2015年度日本管理会計学会全国大会(近畿大学)で研究報告を行い、『管理会計学』に投稿を予定している。検証の結果、①経営者予想利益にラチェットが生じていること、②経営者のインセンティブを引き出すために、当期の収益性が高い企業では、経営者予想利益のラチェットを見越して、当期の収益性が低い企業と比べて、次期の経営者予想利益を達成しやすい水準に設定していることが判明した。また、(2)については、『早稲田商学』446号に論文が掲載される予定である。検証の結果、実績利益が経営者予想利益、前期利益、利益額ゼロを下回る場合に役員賞与が減少する傾向が見出された。加えて、役員賞与の減額の程度は、利益額ゼロの未達の場合が最も大きく、次に前期利益の未達、経営者予想利益の未達となっている可能性が見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在、経営者予想利益をはじめとした利益ベンチマーク達成のための報告利益管理について、先行研究のレビューをさらに進めているため、経営者予想利益のラチェット効果が利益減少型の報告利益管理を引き起こしているかどうかの検証にはまだ取り掛かれていない。ただし、経営者予想利益が経営者報酬のベンチマークとして用いられているかの検証、経営者予想利益のラチェット効果と、それに伴う経営者予想利益の設定の検証についてはほぼ終了しており、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
1年目で行った先行研究のレビューと実証研究をもとに、経営者予想利益のラチェット効果が利益減少型の報告利益管理を引き起こしているかどうかについての検証を、東証1部・2部に上場している企業の財務データを用いて、実証分析を行う予定である。また、学会報告等を通じて、広く研究者からの意見収集も行い、さらに精緻な理論の構築とそれに伴う追加的な実証分析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を計画していた統計解析ソフトの一つが、無料で利用できるようになったことがまずあげられる。また、データ入力を要する分析に未着手のため、謝金を支払わなかったことも理由としてあげられる。
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次年度使用額の使用計画 |
データ入力を要する分析に着手したときの、謝金にあてる予定である。
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