平成28年度は、M&A(合併・買収)件数の増加や、企業結合時の会計処理がパーチェス法に一本化されたことを受け、日本企業が計上する「買い入れのれん」が巨額になっており、のれんの減損損計上の潜在的な確率が増加している現状を指摘し、仮に予期せぬ巨額なのれんの減損損失を計上した場合の株式市場の反応に焦点を当てた考察を行った。 その分析結果を受け、平成29年度は、日本企業が海外企業を取得するM&Aに焦点を当てた考察を行った。日本企業の貸借対照表に、買い入れのれんが積みあがる原因の一つに、クロスボーダーM&Aの増加が考えられる。日本が人口減少社会に突入する見通しがある中で、国内市場規模の縮小を嫌気し、海外の市場への進出(および、当該外国における既存の経営資源や人材の獲得)を目的とし、海外企業を対象としたM&Aに挑戦する企業が増えつつあるが、法や会計制度・証券市場・企業文化等が異なる2企業間のM&Aは、情報の非対称性の存在の大きさ等も要因として加わって、買収コストが増大し、結果的に買収プレミアムが高くつくケースが指摘される。海を隔てた2企業間のM&Aは、計上する買い入れのれんの金額を膨らますだけでなく、買収後のコントロールも難しく、のれんの減損処理につながる可能性も存在する。クロスボーダーM&Aと買収プレミアムに着目した研究は、相対的に新しい研究領域であるため、株価への影響やその変動をもたらす要因等について、それらの最新の知見の整理を行った。
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