研究の結果として,IASBやFASBにみられるような差額概念としての「equity」の考え方は,日本の企業会計制度の設計において馴染まないものであるという結論を得た。どのような理由で馴染まないのかというと1つ目に,既存の日本基準との大きな乖離が指摘できる。日本基準の「株主資本」は株主に限定して捉えられている一方,「equity」は差額で決まるものであり,そこに含まれる発行金融商品の保有者は特定されない。2つ目に,株主と債権者一般の利害調整を行う会社法の立場との不整合な点があげられる。資本金,資本準備金を含む資本剰余金,さらには利益準備金を含む利益剰余金はIFRSベースの財務諸表でも開示されているが,「equity」のもとでは,非負債という条件を満たす新株予約権も「equity」に含まれてしまい,実質的に,新株予約権は,資本剰余金やその他の資本の構成要素として扱われることになる。概念フレームワークにおいて,資本の概念を差額として捉える考え方と対照するものに,資本の概念を負債の概念に優先して独立に定めるという考え方がある。これは,特定の資金提供者を識別して,資本を構成する発行金融商品の範囲を形成するものであり,会社法の利害調整の観点から要請される企業財産の最終的な残余に与る請求権者を特定する視点と高い水準で整合している。特定の資金提供者を識別する視点は,残余に与る最終的な請求権者を特定することにも適うと考えられる。企業会計の概念フレームワーク上,資本の概念を優先して独立に定めることの意義は,利益の計算構造においてどの資金提供者の利益が計算されているのかという点が明確化されると同時に,会社法からの要請である財産分配の基準となる最終的な残余に与る請求権者を特定することに寄与する。このアプローチは,企業会計と会社法が制度的な共生を継続させるうえで有益な手段であるといえる。
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