平成30年度は,研究期間全体の目標である管理会計システムを効果的に活用するための組織能力(管理会計能力)が組織業績に与える影響の解明に取り組んだ。 そのために,平成28年度に実施した我が国上場企業(製造業)を対象とする郵送質問票調査に基づく分析を進めた。具体的には,管理会計能力(吸収能力と経験学習能力)が,管理会計の利用と組織業績の間にどのような影響を与えるのかを実証的に検討した。 その結果,吸収能力の高さは業績評価が組織業績に与える影響を高めること,経験学習能力の高さは非財務業績指標の利用が組織業績に与える影響を高めることが確認された。業績評価,非財務業績指標の利用そのものが組織業績に与える影響が確認されなかったことも併せると,管理会計の利用が組織業績を向上させるためには,管理会計能力を高めることがキーとなることが推察された。 研究期間全体を通じた本研究の研究成果は,管理会計の利用が組織業績に影響を及ぼすことは容易ではなく,管理会計の利用から期待されたような効果を引き出すためには管理会計の利用経験からの学びを活かしていくための経験学習能力と,組織内外に存在する管理会計の利用に関する新たな知識・情報の価値を認識し,取り入れることで既存の知識や組織ルーティンの変化させるための吸収能力がキーとなることを経験的な証拠に基づいて明らかにしたことである。 この発見事項には,なぜ同じような管理会計を利用しているにもかかわらず組織業績に与える影響が異なるのはなぜか,という疑問に対するひとつの解を示したという研究上の意義がある。また,単に管理会計を利用しているだけではなく,管理会計能力を高めるような取り組みこそが重要になることを示したという実務上の意義がある。
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