本研究では,地域経済というビジネス・エコシステムにおける相互作用がMCSに及ぼす影響を解明しようとするものである。組織外部との関係性をビジネス・エコシステムのレベルから理解し,中小企業へのMCSの導入と運用がどのように促進され,MCSのレベルが変化するのかを明らかにしようとするものである。 最終年度では,震災の影響で若干の遅れのあったデータ収集のため,前年度に引き続きエコシステムにおける相互作用を対象としたインタビュー調査・参与観察を行い,参加企業のMCSの状況,その変化を把握することにつとめた。具体的には熊本県中小企業家同友会の協力を得て,経営指針を創る会という経営計画を策定する会に参加し,中小企業がどのように経営計画の策定をはじめるのかを検討した。また,いかに組織立てて経営計画の策定を行えるようになるのかについて,複数社へのインタビュー調査を実施した。 中小企業家同友会では,経営理念,経営方針,経営計画を総称した経営指針の確立に向けた運動に取り組んでいるが,経営指針の確立までには一定期間かかり,試行錯誤しながらレベルアップしていくということを理解した。また,同会の会員企業の特徴として,組織内における会計情報の積極的な開示と共有,トップダウンからボトムアップへの計画策定方法の変更,策定年数が増えればレベルアップが図られることを確認した。 他方で,経営指針の策定にまで至らない会員がいる。あるいは,経営指針の策定をしても社内公表に至らない,社内公表をしても社内に浸透しない,社員参加型になるまでには時間がかかるという課題が把握されていることを確認した。 これらについて,日本管理会計学会の九州部会で研究報告した。また,熊本学園大学の会計専門職紀要に論文を掲載した。
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