本研究は、日本の「伝統的な食文化」とされる和食を対象に、その食文化の保護・継承を推進する諸アクターの実態を明らかにすることを通じ、和食をめぐる運動が何を導くのかを検討し、食を文化遺産化する現代世界の集合的な意思を解き明かすものである。 2010年代より全世界的に食を「文化」としてグローバルな世界の遺産と化していく潮流が強まり、ナショナル、リージョナルな諸次元において特色ある食を評価し保全もしくは復活させようという運動が積極的に展開されている。この流れはそれまで政策の対象外だった食を、国家が国民の教育や健康、または観光のための資源として動員する過程としてとらえられうる。しかしながら、私的な嗜好としての側面も強い食の文化遺産化を単に国家による動員過程としてとらえるだけでは一面的である。食を公共圏と親密圏の錯綜する領域として社会学的にみるには、アクターの相互作用で揺れる動態を見極める必要がある。 ゆえに本研究は「和食」を抽象的な概念と具体的な実践から考察すべく、和食が保護されるべき「伝統文化」として定式化される概念の言説分析と、保護・継承のための活動が行われている実践のフィールド調査をおこなった。定義がゆるやかなまま流通する和食と個々の料理として具現化される和食という「和食」をめぐる概念と実践の相互関係分析を通して、国際的な動向と国内の諸活動の連関によりいかなる和食像が形成されるのかを明らかにする。 2018年度は、研究成果の発表および還元のために、学術雑誌への論文投稿および研究書の分担執筆をおこなった。こうした成果とともに、これまでの研究活動で形成された食や農に関する研究ネットワークを通じて依頼された、食に関する文献紹介や百科事典の項目執筆や一般向けの講演活動をおこなった。なお本年度には本研究成果も含む形で食研究の書評集『フードスタディーズ・ガイドブック』を刊行することができた。
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