研究課題/領域番号 |
15K17184
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
黒田 暁 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 准教授 (60570372)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 集団高台移転事業 / 生業復興事業 / 住まいの再生 / 暮らしの再生 / 地域移動 / 農地復旧と農業復興 / 地域社会の再編 / 地域再生 |
研究実績の概要 |
平成27年度は当該地域社会(宮城県石巻市北上町)の動態を把握すべく、継続的な現地調査を実施し、とりわけ集団高台移転事業により集団移転が順次実行されていく地域(集落)に対して重点的なヒアリングを行った。その際には、地域社会の再編や創出のプロセスを注視し、そのための活動やワークショップの開催を並行しておこなった【住まいの再生】。申請者はとくに農業の生業復興にかんする地元農家や農業法人に対するヒアリングを重ね、当該地域において津波被害からの「農地復旧」は順調に進みながらも、農地の耕作と維持管理を担う人材・後継者の不足が深刻で「農業復興」がままならないという実態を明らかにした【暮らしの再生】。また集団高台移転事業が難航している地域(集落)では、地域課題の抽出とその実態の把握のためのヒアリング調査を行い、9月には地域住民約20人に対する集中ヒアリングを展開した。とくに時間が経過するとともに集団高台移転への参加を見送ったり、地域を離れたりする地域住民が増えてきていることに注意を払い、その動向について綿密なヒアリングを行った。こうした視点は、限られた地域からの「転出」動向だけに目を向けるのではなく、広範囲(石巻市・仙台市・宮城県ひいては東北地方)に及ぶ人びとの「地域移動」と新しい土地での定着プロセスまで視野に入れていこうとする分析視角に基づいている【地域社会の再編】。こうした知見を、平成27年度の研究成果として、平成28年2月に編著書『震災と地域再生――石巻市北上町に生きる人びと』というかたちで上梓したが、同書は研究者の論考部分に加えて、これまでのヒアリングの蓄積から生まれた地域住民の「聞き書き」部分が多く含まれているのが大きな特徴となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は当該地域社会の動態を把握するべく、集団高台移転事業や生業復興事業に関するヒアリング調査を一次調査の位置づけとしていたが、おおむね予定していた通りの質・量の調査を展開することができた。また、東日本大震災発生以降の調査・実践の軌跡を取りまとめるとともに、ヒアリング調査の知見を「聞き書き」というかたちで編著書籍として上梓することができた。東日本大震災発生から5年という制度上の節目と、現地における居住や生活の実態間におけるズレや隙間の存在について指摘するとともに、その問題構造と、解消に向けての地元の実践活動がもつ可能性について一程度明らかにすることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度以降も引き続き集団高台移転事業の経過(移転前・移転中・移転後)について調査を実施する。経過と進展状況を見極めながらヒアリング調査を重ね、集落ベースでの復興ビジョンづくりに資するよう試みる予定である。さらに地域社会の再編に向けては、これまでの申請者の地域調査の経験とデータを活かすかたちで地域とその生業(とくに漁業)に関する聞き書き集ならびに地域資源のブックレットの作成を進め、完成、刊行し、震災前と震災後をつなげる試みを行う。本研究は、「震災からの復興・地域再生」のあり方を総合的に問うことを研究目的としているが、徹底した地域の事例研究を継続する一方で、東北地方という広域にわたる地域研究の視点、さらに「避難」や「地域移動」の社会学的な研究という視点も複眼的に備えることでフロンティアの研究を志向していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定だった参考資料書籍(3冊)の入荷が、年度をまたいでしまったため。 使用予定額はほぼ予定通りに消化した。
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次年度使用額の使用計画 |
調査研究費(旅費)を中心として、調査にかかわる資料収集代、調査補助の謝金、アンケート(サーヴェイ)調査代を軸として使用計画を立てている。前年度は購入を見送ったプリンターについても調査票印刷などのために購入する予定である。
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