研究課題/領域番号 |
15K17187
|
研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
笹島 秀晃 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 講師 (30614656)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 美術 / 制度変化 / ニューヨーク / 文化政策 / 画廊 / オルタナティブ・スペース |
研究実績の概要 |
本年度は、①理論研究(芸術の制度変化の理論のレビュー)、②実証研究(二次文献による1940年年代以前・以後それぞれの芸術制度の記述)を行った。本申請研究全体におけるこれら二つの研究の位置付けに関してであるが、①の研究は実証研究の基本的視座となる分析視角の彫琢を、また②の研究は史資料をとおした研究に先立つ事例の概略を探索的に把握することを目指している。 ①の芸術の制度変化の理論研究であるが、具体的には、芸術社会学における重要な先行研究であるハワード・ベッカー、ハリソン・ホワイト、ピエール・ブルデューの著作を比較検討し、既存の研究において制度変化がどのような過程として記述されてきたのか、および制度変化の要因がどのように説明されてきたのかを明らかにした。すなわち、制度変化の過程としては、芸術をめぐる制度の生成、旧制度の衰退と新制度の興隆が同時進行する事態が、先行研究では指摘されていた。くわえて制度変化の要因としては、芸術の制度における内部変化と外部条件の変化の両方に注目されていたが、とくに芸術の制度変化にたいしては国家と市場が与える影響の重要性が指摘されていた。 ②のニューヨークにおける芸術の制度変化の実証研究であるが、1940年代以前に関しては、ロックフェラー一族・ホイットニー一族などの産業資本家からなる都市富裕層のフィランソロピーに関する文献を検討した。また、1940年代以後に関しては、ニューヨーク州芸術委員会(1960年創設)・全米芸術基金(1965年創設)をはじめとした中央・地方政府による文化政策に関連する文献を検討した。こうした二次文献の検討をとおして仮説的な知見として浮かびあがったのは、ニューヨークにおける芸術の制度が、都市富裕層のフィランソロピーを中心としていたものが1960年代における国家の介入により構造的に変化した可能性である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定を大幅に上回る二次文献の存在があきらかになり、それらの検討を進めていくなかで、一次資料の収集や検討の作業が遅れている。新たに参照すべきことが明らかになった二次文献は、①20世紀前半のニューヨークにおける都市富裕層のフィランソロピーに関するもの、および②ニューヨークの事例を相対化するために比較検討をする際、あらたに日本(東京)とイギリス(ロンドン)の事例をくわえたことによる。 第1の点に関してであるが、1940年代以前の芸術制度の担い手として都市の富裕層の存在が重要であることは、研究開始時には想定していなかった。しかし、1940年代以前の芸術の制度を記述するにあたっては、都市富裕層に触れないわけにはいかず、あらたに参照すべき文献が増えてしまた。第二の点に関してであるが、1940年代前後のニューヨークにおける芸術の制度変化を相対化して分析するためには、申請書執筆時の研究計画で想定していたような事例ではなく、同時代の都市と比較検討するべきであることが新たに明らかになった。そのためにヨーロッパの例としてロンドンを、アジアにおける例として東京に着目し、あらたに比較のための事例として検討を進めている。 ある意味では、研究の進展ゆえの結果ではあるが、可能な限り一次資料をもとにした事例の記述をおこなおうとする本申請研究全体の目的からすれば研究を遅れさせてしまった要因となっている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進の方策であるが、大きく分けて、①1940年代以前のニューヨークの芸術制度を記述するにあたって、都市富裕層のフィランソロピー活動の実態を明らかにするための史資料の収集、②1940年代以降の制度変化を記述するにあたっての、国家による芸術の助成開始の影響を検討するための行政資料と美術関係者への聞き取り、の二つの作業を行うことである。 ①の研究に関しては、ロックフェラー一族のパーソナル・アーカイブやニューヨーク歴史協会に収蔵されている都市富裕層の史料を収集・検討することを計画している。②の作業に関してであるが、昨年度の現地調査で収集したニューヨーク州芸術委員会の基本資料を再度検討するとともに、行政への聞き取り、および美術業界の関係者への聞き取りを進めることである。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本申請研究の研究費の用途は、大部分が海外渡航費である。昨年度はいくつかの家庭の事情により、長期で日本を離れることができず、したがって海外渡航費として予算を執行できなかったことが予算繰越の主な理由である。
|
次年度使用額の使用計画 |
今年度は、夏期・春季ともに中程度の期間、海外調査を経過している。昨年度からの繰越の予算を含めて、これらの経費に研究費残額を使用する予定である。
|