最終年度は、中央・地方政府による文化政策の開始を契機とする制度変化と、ニューヨーク市において1970年代以降拡大していったオルタナティブな芸術組織との関係性を調査するために、現地のアーカイブを中心に史料の収集・検討を行った。具体的には、New York University・Fales LibraryのThe Exit Art Archive所蔵の史料である。 これまで行ってきた、政府による文化政策関連資料の検討から明らかになったことは、米国において、政府はオーケストラやミュージアムといった制度化された芸術組織だけでなく、ジェンダーやエスニシティをはじめとした多様なテーマを掲げた、非営利かつ小規模の芸術組織に対しても直接的な助成を行ってきたことであった。具体的には、全米芸術基金やニューヨーク州芸術財団によって1970年以降から始まる施策である。こうし助成は、ニューヨーク市の芸術業界をささえる制度の変化を意味した。商業画廊といった市場を中心に形成されていたニューヨーク市の芸術業界に、オルタナティブかつ政治的なテーマを掲げた芸術組織のネットワークが拡大し、1990年代の「文化戦争」と称される社会状況につながるような、より多様な芸術活動の場が創生されていった。 こうした知見は、これまで芸術社会学において検討されてきた第二次大戦後の政府による文化政策の開始という、大きな制度変化を検討した先行研究にはない論点を提示したという意味で大きな意義を有するものである。さらには、1990年代以降のニューヨーク市の芸術をめぐる社会状況を理解するために重要な知見を提示することにもつながり、現代のニューヨーク都市理解という意味でも重要な意義を有する。
|