ネパールの男児選好にみるジェンダー、カースト・民族、機能分化的社会関係

2015 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 15K17189
• 研究機関: 福岡県立大学
• 研究代表者: 佐野 麻由子 福岡県立大学, 人間社会学部, 准教授 (00585416)
• 研究期間 (年度): 2015-04-01 – 2018-03-31
• キーワード: 男児選好 / 相対的剥奪感 / 相対的上昇感 / 諦念 / ネパール

研究実績の概要

本研究の目的は、（1）相対的剥奪観、相対的上昇観が男児選好の促進要因となる、逆に、諦念が男児選好の抑制要因になるという仮説を設定し、統計的手法を用いて実証すること、（2）上述（1）の分析を通して、男児選好の促進につながる相対的剥奪感や相対的上昇観、逆に、抑制に作用すると思われる諦念を生みだすネパールの今日のジェンダー関係、カースト・民族間ヒエラルキーの再編関係、機能分化的社会関係の進展度合いを明らかにすることにある。1年目は、（1）ネパールの人々の抱いている相対的剥奪観、相対的上昇観、諦念の内実を解明すること、（2）相対的剥奪観、相対的上昇観、諦念とジェンダー、カースト・民族、家族関係・人間関係の変化（核家族化・産業化や都市化に伴って生まれる機能分化的社会関係）との関連について明らかにすることを研究の課題とした。
上記の課題について、政府統計資料の分析、聞き取り調査を実施した。政府統計資料の分析からは、（a)GDPは年々増加し、2012年には10年前のおよそ2.8倍になったものの格差を示すGini係数については、1995年とほぼ同様の水準であること、(b)貧困率についても、低カーストや少数民族において大幅に改善されたものの、平均余命、識字率、所得で計測される人間開発指数の達成度合いは低カーストや少数民族において相対的に低いこと、がわかった。聞き取り調査では、少数民族出身者は経済的な成功をおさめていても、社会的地位においてブラーマンやチェットリよりも劣位に置かれていると感じていること、女性においてはカーストよりもジェンダーによる相対的な劣位を感じていること、都市在住者であっても親戚や同郷のつてで現在の居住地域を見つけた人は、同郷出身者や親せきが比較対象になっていることがわかった。他方、諦念と家族類型、保持する社会的ネットワークとの関係については、予想していた結果が得られなかった。

現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

「課題（1）ネパールの人々の抱いている相対的剥奪観、相対的上昇観、諦念の内実を解明すること」については、当初の計画どおり統計資料ならびに聞き取り調査を通じて情報を収集できた。しかし、「課題（2）相対的剥奪観、相対的上昇観、諦念と家族類型、保持する社会的ネットワークとの関係」については、諦念と家族類型、保持する社会的ネットワークとの関係について十分な聞き取りができなかった。後者の点で、当初の計画より遅れをとっている。

今後の研究の推進方策

先述の課題（2）の諦念と家族類型、保持する社会的ネットワークとの関係について、政府統計資料で人間開発指数の達成度が下位の低カースト、少数民族に的を絞り聞き取りを実施する。これと同時に、2年目の研究計画である質問紙の作成、質問紙調査の実施を行う。

次年度使用額が生じた理由

次年度使用額には、28年3月末から4月上旬にかけて実施、つまり、年度をまたいで実施したネパールにおける調査旅費が含まれている。

次年度使用額の使用計画

残額は、28年3月末から4月上旬にかけて実施、つまり、年度をまたいで実施したネパールにおける調査旅費として精算される予定である。