本研究の目的は、(1)相対的剥奪感、相対的上昇感が男児選好の促進要因となる、逆に、諦念が男児選好の抑制要因になるという仮説を検証すること、(2)上述(1)の分析を通して、男児選好の促進につながる相対的剥奪感、逆に、抑制に作用すると思われる諦念を生みだすネパールの今日のジェンダー関係、カースト・民族間ヒエラルキーの再編関係、機能分化的社会関係の進展度合いを明らかにすることにあった。2016年10月から2017年3月にかけて首都カトマンズを擁するバグマティ・ゾーン在住の18歳以上70歳未満の男女2589名から回答を得た調査では、次の点が明らかになった。 (1)相対的剥奪感が強い人ほど、老後の保障、財政的支援、家系、葬式、財産相続という理由で男児を選好する。他方、諦念と男児選好との関連については、仮説とは異なり、諦念が強い人ほど、財産相続、財政的支援、葬式、名誉という点から男児を選好する。逆に、男児選好が弱い人の特徴として、社会的地位の上昇志向(Upward mobility)が高い人が挙げられる。 (2)カースト・民族別の相対的剥奪感、社会的地位の上昇志向との関係を分析すると、相対的剥奪感はジャナジャティ(先住民族)やダリット(低カースト)において強く、先住民族の中でも社会的・経済的に恵まれた人が多いネワール民族においては弱い、社会的地位の上昇志向は社会的・経済的機会に恵まれているネワール、チェットリにおいて高く、ダリットにおいて低い。この点は、ダリット、ジャナジャティにおいて男児選好が相対的に強いことと合致する。 以上の分析・考察から、属性主義から業績主義への制度的転換の中で、属性からの個の解放を実感できているか否かが男児選好に深くかかわっているという知見を導き、投稿中の論争「それでも息子が欲しい?:ネパールにみる過渡期的発展と男児選好の未来」にまとめた。
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