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2015 年度 実施状況報告書

故郷喪失と他郷暮らし:福島第一原発事故による避難生活者のライフストーリー聞き取り

研究課題

研究課題/領域番号 15K17192
研究機関東北学院大学

研究代表者

黒坂 愛衣  東北学院大学, 経済学部, 准教授 (50738119)

研究期間 (年度) 2015-04-01 – 2018-03-31
キーワード原発事故避難 / ライフストーリー / 故郷喪失 / 他郷暮らし / 飯舘村長泥地区 / 富岡町
研究実績の概要

この1年間,福島市及びその近辺に避難している飯舘村長泥行政区住民,および三春町に造られた応急仮設住宅に暮らす富岡町住民を対象として,東京電力福島第一原発事故による避難生活者の聞き取り調査を実施してきた。長泥調査では,山中知彦(新潟県立大学教授)を世話人とする長泥記録誌編集委員会の一員として『もどれない故郷ながどろ――飯舘村帰還困難区域の記録』(芙蓉書房出版,2016年)の出版に関わった。本書は2016年3月11日付の朝日新聞「天声人語」で取り上げられた(そこでの「社会学者ら」とは研究協力者の福岡安則[埼玉大学名誉教授]とわたしのことである)。また河北新報や産経新聞でも本書は大きく取り上げられた。
富岡調査では,2014年度からの予備調査も含めて7回,三春町内の仮設住宅で聞き取りを実施したほか,2015年12月には熊耳仮設の自治会長のはからいにより,避難指示の解除へ向けて現在除染作業中の富岡町現地を訪問した。
両調査の中間報告として,東北学院大学総合学術誌『震災学』第8号(荒蝦夷,2016年4月)にフィールドノートを執筆した。また市民向け講座「第11回安保カフェ」(主催:安保関連法に反対する被災三県大学教員有志の会,2016年5月12日)にて,「原発事故避難者の声に耳を傾けて」と題して話題提供を行なった。
本研究課題は,わたしが10年以上調査研究を重ねてきたハンセン病問題とも,《故郷喪失と他郷暮らし》という視点でリンクする。今年度は単著『ハンセン病家族たちの物語』(世織書房,2015年)を上梓したほか,2016年3月14日付産経新聞(大阪本社版)紙上に「らい予防法廃止20年」をテーマに寄稿。さらに,わたしの研究活動が,2016年4月2日付河北新報インタビュー記事,および2016年4月20日付朝日新聞「ひと」欄にて紹介された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

長泥行政区は飯舘村で唯一の帰還困難区域である。「時間の経過とともに,住民の結束を維持するのが難しくなっている。震災5年目の春までにムラの記録誌を作りたい」という行政区長の強い思いに動かされるかたちで,2015年春,長泥記録誌編集委員会が結成され,わたしも委員の一人として参加することになった。わたしの参加する聞き取り班では,語り手を行政区役員に紹介してもらうかたちで,福島市およびその近辺に避難している人々から計16回の聞き取りを実施し,『もどれない故郷ながどろ』に収録。写真家の関根学を中心とした写真班の貢献により,本書には震災以前/以後の長泥のようすを映した写真もふんだんに掲載されている。編集委員会発足から1年での発刊は困難であるように思えたが,地元委員および山中知彦世話人を中心とした外部委員の尽力により,これを実現した。発刊後,本書にたいする住民からの評判はすこぶる高い。「本を送ったら,涙を流しながらのお礼の電話がきた」という地元委員の報告がある。わたしを含め外部委員にはそれぞれ,長泥行政区からの感謝状が贈られた。
三春町につくられた仮設住宅での調査について,当初の研究計画では,富岡町の避難生活者だけでなく,葛尾村の避難生活者からも聞き取りを実施する予定であった。しかし葛尾村ではすでに行政主導でのインタビュー調査を実施済みとのことである。現時点では,重ねての聞き取り調査は難しいと判断している。
三春町内にある6つの富岡町応急仮設住宅(このうち1つは現時点では閉鎖され撤去されている)は,すべて訪問している。まずは,富岡町役場三春出張所の職員から各仮設住宅の自治会長を紹介してもらい,聞き取りを行ない,各自治会長からさらに住民を紹介してもらうかたちで,聞き取り調査の対象を徐々に広げているところである。現時点で18名からの聞き取りを実施している。

今後の研究の推進方策

政府は,2017年3月までに「避難指示解除準備区域」「居住制限区域」の避難指示を解除する方針である。帰還を選択するひと,復興公営住宅へ入るひと,よその地域に住まいを求めるひと,仮設住宅に住み続けるひと等々,避難生活者の移動(および離散)の時期が,ふたたび始まると予測される。2016年度以降,その動きをしっかりとみつめるかたちで調査を実施したい。
長泥調査では,行政区役員からの紹介であるという制約もあり,聞き取り調査の語り手は主として50代以上の男性が中心であった。今後は,女性や,より若い世代からの聞き取りを行なっていきたい。
富岡調査では,熊耳仮設住宅で8月6日に開かれる夏祭りに,わたしの学部ゼミ生を連れて参加する予定である。人間関係の構築をさらに深めたい。今年度は長泥のほうが記録誌発刊をめざして急ぎの仕事であったため,富岡の聞き取りの音声おこしがほとんど進んでいない。この作業を進めるとともに,あらたな聞き取りを可能なかぎり蓄積する予定である。

次年度使用額が生じた理由

本研究課題の採択時,日本学術振興会より,倫理上の対策について意見が付いた。このため,わたしは,所属大学の研究倫理審査機関である「東北学院大学人間対象研究審査委員会」に研究計画書を提出し,調査倫理の適合性について,審査を申請。審査結果が出るまでは調査を自粛したほうがよいだろうと判断し,夏前までは,本研究課題の一環としての現地訪問調査は行わなかった。このため,研究計画書に比べ,予算消化が遅れたものである。
なお,正式な審査結果が出るまでに思いのほか時間がかかったため,審査委の許可を得て,夏からは実質的に現地訪問調査を開始している。12月には正式に承認を得ている。

次年度使用額の使用計画

上記のような制約があったにもかかわらず,本研究課題は今年度,当初の研究計画よりも大きく進展している。長泥記録誌編集委員会編『もどれない故郷ながどろ』(2016)の出版は,聞き取り調査の意義について,調査地の人々にも目に見えるかたちで示すこととなった。本書出版までの経過で,調査地のキーパーソンとなる人々との信頼関係の構築と,聞き取り調査の意義についての認識の共有ができた。次年度以降,このキーパーソンとなる人々から,あらたな語り手を紹介してもらう約束になっている。次年度使用額は,主として,この調査のための旅費として使用する予定だ。
さらに,震災から5年が経つ現在,東京電力福島第一原発事故による避難生活者をめぐって,さまざまな学問分野の研究成果が出てきているところである。次年度使用額は,これらの文献収集のためにも使用する。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2016 2015

すべて 雑誌論文 (1件) 図書 (2件)

  • [雑誌論文] 故郷を追われて--福島調査フィールドノート2016

    • 著者名/発表者名
      黒坂愛衣
    • 雑誌名

      震災学

      巻: 8 ページ: 118-123

  • [図書] もどれない故郷ながどろ――飯舘村帰還困難区域の記憶2016

    • 著者名/発表者名
      長泥記録誌編集委員会(地元委員7名、外部委員10名=大渡美咲、トム・ギル、黒坂愛衣、佐藤忍、関根学、福岡安則、本田晃司、前田せいめい、山中知彦、依光隆明)
    • 総ページ数
      389
    • 出版者
      芙蓉書房出版
  • [図書] ハンセン病家族たちの物語2015

    • 著者名/発表者名
      黒坂愛衣
    • 総ページ数
      434
    • 出版者
      世織書房

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公開日: 2017-01-06  

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