本年度は、2016年度に刊行した著書『社会運動のサブカルチャー化』『社会運動と若者』の議論に対し、多くの研究者からコメントをいただき議論を行った。そのうえで、社会運動従事者にとって、また彼らのキャリアにとって「日常」と「出来事(イベント)の関係がどのような関連にあるのかを論じるため、「移動」という分析軸を立て、社会運動論に限らず観光学やカウンターカルチャーといった議論を踏まえながら研究を継続した。 1960年代を発端として起こったカウンターカルチャーや、バックパッキングツーリズムなどの旅に対し、社会運動における「非日常の中で営む日常」である移動は、恣意的な形でカウンターカルチャーやバックパッキングが「再現」される、言わば対抗性を自明としなくなった時代において、「再現される対抗性」なのではないかと考えた。 個人化・流動化の中で、世代をはじめとした属性に基づく対抗性が保持しにくくなっているからこそ、社会運動や集合行動が成立し難い現況がある。こうした状況に鑑みて、移動という「非日常」をもってこそ経験が共有可能になり、現代的な連帯の形をなすという議論は、宗教学の知見とも重なるものである。 この研究成果は「カウンターカルチャーとしての旅」として論文化し刊行、また学会発表・講演なども行い、実務家・研究者両者からのコメントを踏まえた上で英語化をおこなっている。今後調査を継続し、データ・分析ともに厚みのある成果を刊行したい。
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