本研究最終年度は、三陸地域の風土・地質の「来歴」と歴史地理的観点からのフィールドワークを町民の方々と開催、昨年から引き続き歌津地区払川での調査および、その下流域の伊里前地区での環境生態調査をおこなった。また、最終報告としてブックレット『南三陸の森里海』を刊行し、本研究成果を南三陸町内の小中学生に配布することができた。 東日本大震災から7年目を迎える南三陸町は、この3月でようやく被災者全員が、仮設住宅から復興住宅への移転完了となる。しかし、まちづくりはハード、ソフト面共に未完成であり、これから先も十数年の単位で、工事事業が続くことが予想される。 本研究の問題意識は、退縮化に向かう時代状況にあって、三陸地域の復興がどのように可能なのかを、「流域」「生存基盤」「文化継承」という3つのキーワードをもとに検証することである。本年度は、とりわけ「限界集落」と見なされそうな山間の10軒ばかりの払川集落が実に500年存続してきたことを再発見し、村がなぜ10軒で続いてきたのか、そこにはどのような風土と生業があるのか、人と人はどのように関係を結んでいるのかなど、三陸地域のコミュニティを考えるうえで欠かせない要素が見えてきた。しかし、500年続いてきたコミュニティが今後さらに500年続くのかどうか、難しい局面に差し掛かっているともいえる。東日本大震災以後、これまで何とかバランスを維持してきた地域が、震災によって、村に連なる人々が移動、転居を余儀なくされ、高台移転や開発事業によって、村を取り巻く環境が激変しているからである。本年度はひとまず現在の研究は完了するとして、引き続き、震災後の地域観察を続ける。
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