研究課題/領域番号 |
15K17200
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研究機関 | 名古屋学院大学 |
研究代表者 |
人見 泰弘 名古屋学院大学, 国際文化学部, 講師 (10584352)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 国際社会学 / ビルマ系難民 / トランスナショナリズム / 民政移管 |
研究実績の概要 |
研究助成一年目の平成27年度は、先行研究の検討および実証研究のためのデータ収集を中心に行った。まず移民研究で注目されるトランスナショナリズムに関する先行研究を検討し、国境を越えた人々の移動や実践、送り出し国や受け入れ国政府といったアクターの関与などに注目する視点を得た。そのうえで、難民の祖国の政情変化が、難民当事者や送り出し国や受け入れ国政府の政策に与える影響を分析する意義を確認した。 こうした意義をふまえつつ、日本(東京)およびビルマ(ヤンゴン)でのフィールド調査を行い、ビルマ系難民や難民組織へのヒアリングや資料収集などを実施した。 日本(東京)での調査からは、祖国の民政化が進むなかで、難民組織などが2015年のビルマ総選挙への対応や民主化運動の再考に取り組んできたこと、また難民組織の役割を見直す動きが進んでいることが確認された。そして民政移管後に祖国への一時帰国が可能になるなかで、ビルマ系難民は政治経済的な機会を模索しつつ、祖国とのつながりを回復・修復しようとしていた。またビルマ(ヤンゴン)での調査からは、難民帰国者が祖国や日緬両国をまたいで生活基盤を形成し始めていることが確認された。一方で移住背景の違いから、難民帰国者の越境的な取り組みには濃淡があることもわかってきた。今後はこの点に着目して、さらなる分析を加えていく。 これまでの調査結果は、国際社会科学団体連盟(IFSSO)主催の第22回研究大会(5月)、日本社会学会主催の第88回日本社会学会大会(9月)、東アジア社会学者ネットワーク(EASN)主催の第13回研究大会(EASN)などにて報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画に沿って、本年度はトランスナショナリズムに関する先行研究を中心に検討するとともに、日本(東京)およびビルマ(ヤンゴン)におけるフィールド調査を複数回実施して、成果を国内外の学会にて発表してきた。祖国の民政化が日本側の難民コミュニティの性質を変えつつあること、ビルマ側では難民帰国者が新たな移住戦略を構築し始めていることが実証的に把握できたことは大きい。とりわけ、ビルマ系難民の日緬両国における越境的な移住戦略は頻度や活動領域などにおいて多様な展開を見せ始めていた。越境的な移住戦略の多様性に着目する視点を獲得できたことで、今後は移住戦略の内的編成に注目して分析を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、今後は日緬両国におけるこれまでのフィールド調査の結果を整理統合し、越境的な社会空間の内的編成を中心に分析を行う。そして研究成果を口頭発表や学術論文などの形式で発表していく。平成28年7月には、国際社会学会(ISA)主催のThird ISA Forum of Sociology(ウィーン大学)において、滞日ビルマ系難民の越境的な移住戦略について学会報告を行う予定である。海外の社会学者・国際移民研究者に成果をアピールする。 また今後も日本(東京)およびビルマ(ヤンゴン)にて補足調査を実施していくとともに、研究成果を学会誌や紀要などの学術誌に公表していく。 なお、2016年3月にアウンサンスーチー氏が参加するNLD政権がスタートし、民政化の動きがさらに進むとみられる。刻々と変化する政治状況をふまえつつ、滞日ビルマ系難民の日緬間の移住戦略の分析を行っていく。
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