研究課題/領域番号 |
15K17201
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
大井 由紀 南山大学, 外国語学部, 准教授 (10551070)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 留学生 / 排華法 / 未完の近代 |
研究実績の概要 |
今年度は、在米中国人留学生が、アメリカにおける移民政策と人種差別をどのようにとらえたか、という点に着目し、研究を進めた。清からアメリカへの人の越境移動は、従来賃金労働者や商人が主であった。しかし19世紀末から20世紀前半にかけて、清とアメリカそれぞれ、また双方の国策のもと、清から国費留学生がアメリカへ送られるようになった。その目的は、留学生に「近代化」を学ばせ、やがて中国の制度を「近代化」することにあった。初期はYung Wingの教育使節団という形で東部の大学に派遣され、この時の「近代化」は軍事的なことを指していた。のちに、アメリカが受領するべき義和団事件の賠償金が清からの留学生派遣につかわれることが決まると、「近代化」が指す範囲は技術的なもの・思想的なものまで広がった。今年度は、このように「近代化」を自由・平等を掲げるアメリカで学ぼうとした留学生たちが、実際にアメリカで「未完の近代」を経験することで、人種差別・移民についてどのように考えたのか、Chinese Students' Monthlyの記事から明らかにした。その中で、アメリカに対する思想が変化するなかで、日本に対する思想も変化していったことが明らかになった。こうした研究の意義は、先行研究では清米間の移動において移民排斥諸法の対象となった労働者が主に着目されてきたのに対し、排斥法の「免除階級」の対象となった留学生にまで研究対象を広げた点にある。さらに、越境者のトランスナショナルな社会空間を清米間のみだけでなく、在米留学生の日本と日本に対する考えや日本に留学した中国人留学生との比較も含める形で、より広い視座から越境移動とその影響を考察できたことにある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
排斥法関連の研究の進捗状況に対し、蒸気船に関する進捗がやや遅れている。今年度前者に関する論文・研究発表があったため、このような結果になった。今後は蒸気船に関する研究を優先し、両者を包括的に考察できるようにする。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はこれまでの研究の総括の年となるため、アメリカにおける排斥移民法の形成を再度整理するとともに(とくに中国系に対する排斥法から日系に対する排斥法へどのように接続されていったのか、ヨーロッパ系移民の排斥との関連性)、蒸気船の越境移動への影響を明示できるようにする。後者では特に、アメリカからアジアへの海外旅行が宣伝されるようになるなかで、アメリカにおける「アジア」の文化的イメージ・受容について明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
テーマが、分担者として参加している共同研究と重なってるものがあり、出張などを分担金から拠出することがあったため、差額が生じました。使用計画としては、英語でのアウトプット(論文、報告)のさいの英文校閲、国内での旅費を予定している。
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