研究課題/領域番号 |
15K17202
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研究機関 | 名古屋産業大学 |
研究代表者 |
松下 奈美子 名古屋産業大学, 環境情報学部, 講師 (00743642)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 高度人材 / 科学技術分野 / 留学生 / 東アジア / 国際労働移動 / 外国人受入政策 |
研究実績の概要 |
平成28年度の実証調査は、4月末から5月に中国の東北三省(黒龍江省、遼寧省、吉林省)での現地調査を行った。中国東北三省は、経済発展の著しい中国南西部と比較して、経済状況が悪く、多くの人材が中国の他の地域や、国外に移動していることがわかっている。その中で、20代から30代の人材に焦点を当て、ヒアリングをしたところ、内モンゴル自治区などから、中国東北部の中の比較的大都市である長春、咸陽、大連などに移動しているケースと、海外に移動している2パターンあることがわかった。30代までの年齢層では、学歴によって移動希望が中国国内と国外に分かれていた。大卒以上の学歴を持つ場合、中国東北部からの移動を希望している人が多いが、中国トップクラスの大学を卒業している場合、国外に移動するよりも中国国内に残るほうが条件がいいというケースが多く、海外移動を希望しつつも、待遇面で移動を躊躇するというケースも見られた。 研究成果の発表としては、『移民政策研究』8号に「科学技術分野における高度人材の集団的国際移動に関する社会学的考察-アメリカへ移動するインド人IT技術者集団の事例をもとに」という査読付き論文を発表した。学会発表では、日本地域学会で、「クラスター化する高度人材の国際移動ーアメリカへ移動するインド人IT技術者の集団的移動をもとにー」という題目で成果報告を行った。 また、国際会議ではThe 2016 International Metropolis Conference Aichiで、「Acceleration of Highly Skilled Migration by Economic Relationship between Japan and China」というタイトルで中国大連における日中の経済関係の深化と人材の移動に関する発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までの研究は、実証調査を含め、ほぼ計画通りに進んでいる。 当初の予定では、海外実証調査がうまく行かなかった場合のフィージビリティとして、日本国内でのヒアリングや文献研究も念頭においていたが、中国での実証調査が実行できている。 計画書では、インド、東南アジアなどでの実証調査も余力があれば実施する方向でいたが、治安などを考慮し、インドでの実証調査は見送り、中国に焦点を当てて、調査を行う方向で研究を進めているが、アジア地域における高度人材の国際労働移動という研究テーマから逸脱するものではないといえる。とりわけ、黒龍江省、遼寧省、吉林省など中国東北三省から中国都市部へ移動せずに海外へ移動する高度人材と、北京、上海の中国の大都市から、日本へ移動した人材との比較、そして日本への移動を希望しながらも結果的に日本への移動を選択せずに中国国内に留まった高度人材への聞き取り調査をすることができた。 研究成果の公表についても、International Metropolis Conference Aichi2016での国際会議での発表、日本地域学会では「クラスター化する高度人材の国際移動ーアメリカへ移動するインド人IT技術者の集団的移動をもとにー」という発表タイトルで、高度人材の移動に関するる論的な考察に関して発表を行った。移民政策学会冬季大会では、国際セッションで、中国人留学生と元留学生を理系と文系で日本での就職と定着にどのような差異があるのかに関する実証調査の報告を、東京工業大学に留学している理系大学院生との共同発表で行った。
予算の執行についても、平成28年度については繰越金額はなく予定通りに予算を執行できている。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は研究最終年度であるため、研究成果のまとめを重点的に実施する予定である。これまでに実施した中国での実証調査を投稿論文として発表する予定である。実証調査を元に得られた知見を、日本が今後高度人材をどのように獲得していくのかという政策的な課題解決にフィードバックさせることを今年度の重点的な研究目標としている。今年度は、2000年代の日本の高度人材導入政策の制定経緯、政策導入開始後の運用実績などを検証し、それらが実態と比較してどのような問題点を内包しているのかについて考察を行う予定である。 また、高度人材の国境を越えた国際移動という実態をできるだけ社会理論で説明できる枠組みを構築することも今年度の大きな目標である。従来の人的資本理論に基づいたミクロな移動とは異なる移動形態が高度人材でも生じているという事象を理論的説明枠組みとして昇華させることが本研究の最終的なテーマでもあるため、実証研究と政策研究を融合させ、最終的に理論的研究にまで到達できるように研究を遂行する予定である。
研究成果の公表については、国内の学会発表と投稿論文のほか、2017年の末から2018年始めに出版予定の書籍での公表も予定しており、すでに出版原稿は提出済みとなっている。
予算の執行については、おおむね計画通り執行することで研究をきちんと遂行する予定である。
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