平成29年度は、4月末から5月に中国の陝西省を中心に調査を行った。陝西省は中国有数の都市だが、観光産業に比重が偏ってきたため、若年層は就職を求めて上海など沿岸部へと移動してきた。しかし、近年は中国内陸部でも経済発達が進んできたため科学技術関連企業の進出や若年高度人材の国際移動に関する実証調査を行った。 陝西省、河南省は従来古都として観光業やサービス業によって地域経済を維持してきたが、近年では高新技術開発地区を中心に多くの企業が進出しているが、若年高度人材は陝西省、河南省に留まるのではなく、他の都市部への流出、あるいは日本などへの国際移動のケースが聞き取りからは伺えた。陝西省の高校を卒業後、日本に留学し、中国に帰国せず日本で就職したIT技術者や、河南省で大学を卒業後、中国国内で就職せずに、タイで中国語教師になることを選んだ人物は、国際労働移動を決定した動機に、給与の高い中国での就職よりも待遇は低くてもタイという国への魅力を挙げていた。 これらのヒアリング結果からは、待遇面でより条件のいい中国企業への就職を蹴ってでも、自分のやりたいこと、あるいは働きたい場所(国)を優先するという傾向があることがわかった。従来の中国からの外国人労働力のプッシュ要因は、経済的な要因によるものが大きいという局面は終わり、新たな若年層の国際労働移動のトレンドが出てきたと考えられる。 研究成果の公表は、『移民政策のフロンティア-日本のアルミと課題を問い直す―』(共著)の中で、「日本の外国人高度人材の受け入れ政策の検証」という論文で公表した。また、移民政策学会で「日中を移動する中国人若年人材の国際労働移動に関する考察-元留学生と非留学生の就職と離職」という題目で発表を行った。日本地域学会では「中国から日本へ移動する若年高度人材の異動に関する考察-北京・上海・大連の事例をもとにー」という題目で発表を行った。
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