先行研究において戦前日本における人口政策というと「産めよ殖やせよ」の出生促進政策が想起されがちであったのに対して、本研究では戦前から日本でも母子保健や児童・母性の保護、社会衛生といった優境問題を扱う学説や実践がみられたことに注意を払った。その立場から、人口問題と社会政策はその原点において密接に結びついており、生存や生活の保障は人口の<量>ではなく<質>の問題との関わりで議論されてきたことを厚生省等の施設等の機関、人口問題審議会の関係者の言説などから跡付けた。具体的には、戦前から戦後にかけての人口‐社会行政に一貫して関り続けた舘稔(たち・みのる)の遺した文献資料の検討を中心に、日本における人口の<質>に対する問題意識がどのように形成、展開されてきたのかを明らかにすることに努めた。その成果は定期的に著書や論文としてまとめ、広く発信した。本研究課題に取り組む間に学会やワークショップ、研究会などの報告機会を多く得られたことで、研究を進める上で貴重な助言にも恵まれた。 この研究課題の成果として、人口‐社会行政の展開に焦点を当てて日本における人口-社会保障論の系譜を描き出すことができたと考えている。
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