本研究は、二つの調査から構成されている。 一つは日本国内において、障害者をケアする母親に対するインタビュー調査である。フルタイム・パートタイム・無職と就労状態が異なる成人期障害者をケアする稼働期の母親に対して、労働実態や生活問題、ケア役割の遂行状況についての聞き取り調査を行なう。これらを通じて、母親が働くことは家族の経済問題を解決するのか、いかにして働いているのか/なぜ働けないのか、母親が働くことはケア役割や自らのアイデンティティ、家族内の地位にどのような影響を及ぼしているのかということを明らかにする。さらに、逆説的ではあるが、現在、フルタイムで働く母親に対して、聞き取り調査を行ない、生活の実態やケア役割との葛藤についての考察を行なう。母親のケア役割への専従化が求められる状況で、フルタイムで仕事を行なうことは、社会資源の調整やケアとの両立等様々な困難や葛藤が生じていることが考えられる。それらの実態を明らかにすることで、ケア役割と労働の両立に向けての視座を得ることを目的とする。 二つ目は、日本における実態を踏まえ、フィンランドとの比較検討を通じて、いかなる社会支援があれば障害児者の母親のワーク・ロスが解消するのかということへの示唆を得ることである。障害者の日常生活や経済面で家族の関与が前提とされていないフィンランドとの比較研究をすることで、ケアと仕事の両立の実際や、それを可能とする制度・社会資源についての考察を行なう。
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