すでに戦後直後から初期世帯更生資金貸付の設立・運用についてや、近年の生活福祉資金貸付の動向について明らかにしており、今年度はその間の期間の世帯更生資金貸付の運用実態について明らかにする研究を行った。こうした研究成果については日本社会福祉学会大会で報告した。世帯更生資金貸付は、制度的には低所得者の幅広いニーズに対応するよう設計されていたが、実際にはいわゆる「名目的自営業」の維持(向上ではない)のためや、生活保護受給者も含めた官民の教育資金貸付を利用できない階層を主要な対象とした貸付として運用されていた。また、制度の創設目的として掲げられた「経済的自立と生活意欲の助長促進」という役割についても、当該制度は十分に果たすことができなかった。たとえば小規模企業が成長して基盤を安定させるに必要とされる生業資金貸付である更支援や他の金融機関との連携はほとんど展開されておらず、他の政策金融との連携もまったくとられなかった。また消費資金の必要性や「サラ金」問題については、社会福祉協議会や民生委員がその問題の深刻さや、対応すべき支援内容について十分な認識を持っておらず、必要な対策を展開できなかった。低所得者層の幅広いニーズに対応するためには、単に貸付制度のカタログを幅広く整備するだけではなく、貸手が、対象とする低所得者の多様なニーズとその背景をよく理解し、ときには貸付的手法を超えた支援の展開も構想することが必要である、ということが明らかになった。 また戦後から現在かけて展開する民間の福祉貸付事業として生活協同組合が実施する生活相談・貸付事業についても、戦後以降の協同組合運動のなかの取り組みとして評価し、その意義を検討した。こうした研究成果は協同組合学会大会で報告した。
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