本研究は、社会的ジレンマ(SD)の解決策として提示されてきた、罰・報酬(サンクション)システムの有効性を、制度と集団規模に着目して比較検討した。具体的には、人類の発展に伴って増大した集団規模を実験的に操作し、小規模集団では個人報酬が、大規模集団では制度罰が有効であることを示すことを目的とした。去年度までの成果として、1)集団の大規模化によって生じるサブグループ化が、個人間サンクションの機能を低下させ、SD協力達成を困難にすること、2)制度罰(各成員が制度に支援し、その支援を元手にして、システムがルールに戻づいて集中的に罰を課す)においては、1次罰(SD非協力者への罰)より2次罰(制度に支援しない者への罰)を優先させた方が、SD協力は達成されやすく、それが大規模集団での協力を支えること、が示されてきた。最終年度である本年度は、これらの知見を論文としてまとめることに力を注いだ。その結果、1)については分析手法の吟味に時間がかかったものの、現在枠組みは完成し、近く投稿できる見込みである。2)については、査読の上、既に英文雑誌にて出版されている。 以上のように、本計画が最初に企画していた成果については十分に達成されたが、さらに新たな研究として、制度罰はいかに自生するのかを検討する実験を行った。具体的には、特定個人への資源集中とその個人による1次罰と2次罰による安定的な協力状況が、どのような条件がそろえば成り立つのかの検討をした。現状では、その条件の特定には至っていないが、制度罰の自生には「特定個人のへの信頼」が重要となることが示唆され、今後の研究の道筋を提示することとなった。
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