本研究の目的は、集団成員の流動性の高まりが平等分配(貢献度によらず資源を平等に分配する分配方法)の規範を弱める可能性について、社会生態学的観点から実証的に検討することであった。具体的には、集団成員が流動的であるような社会状況では、固定化されているような社会状況と比較して、i) 誰が資源を分配しない人かを知覚しにくいこと、またii) そのような人間の資源の持ち逃げを許すことから、平等分配が適応的ではないという理論的予測を、調査研究と実験研究を実施し、実証的検討を行うことを計画していた。 これまでアメリカのデータをもとに行ってきた調査研究では、州レベル(州の引っ越し率と社会保障費の割合)・個人レベル(郵便番号ごとに区切られた引っ越し率と平等分配規範への選好)で集団成員の流動性と平等分配規範とが関連することを明らかにしてきた。また、プライミング法を用いた検討により、集団からの離脱を思い浮かべさせると平等分配規範への選好が弱まる可能性が示唆された。 最終年度となる平成30年度は、流動性の高まりが平等分配行動を促すかどうか、行動実験を実施して検討することを目標としていた。これまでの研究は比較的平等分配規範の弱いアメリカで実施されてきたもののため、まず、日本においてプライミング実験を実施し、アメリカでの実験結果が再現できるかどうか検討した。この結果、これまでの研究結果を追認し、集団からの離脱を思い浮かべさせると平等分配規範への選好が弱まる可能性が示唆された。今後、実験を実施し、流動性の高まりが平等分配行動を促す可能性を検討する予定である。 これらの研究結果は、将来的に、個々の社会に適切な社会制度の設計に貢献可能であると考えられる。
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