他者に対して思いやりをもって接しようとする思いやり目標と,他者に自己の好ましい印象を与えようとする自己イメージ目標が,所属する集団に対する異論の表明をどう予測するかを(1)日米でのウェブ調査と(2)アメリカ人を対象とした実験室調査で検討した。
(1)日本人354名とアメリカ人378名を対象にウェブ調査を行い,対人目標と異論の表明の関係が日本特有の現象ではなく,アメリカ人でも同様の結果が得られることを確認した。具体的には,日米両国において,思いやり目標の高い人ほど異論の表明は集団にとって有益であると感じ,より頻繁に,また,自分の意見として,よりはっきりと責任を持って異論を表明することが明らかになった。一方,自己イメージ目標については,どのようなイメージを相手に与えたいかによって,異なる結果となった。日米両国において,他者に有能であることを印象づけたいと思う傾向のある人ほど,より頻繁に異論を表明するのに対し,他者に「いい人」であることを印象づけたいと思う傾向のある人や,他者に悪い印象を与えたくないと思う傾向のある人ほど,異論の表明の頻度が少なかった。また,有能な自己イメージを与えたい人や,悪い自己イメージを与えたくない人ほど,異論の表明は自分のためであると考える傾向が強く,自分の意見としてでなく,一般論として異論を述べる傾向が見られた。
(2)アメリカ人大学生240名の思いやり目標と自己イメージ目標を測定した上で,実験室にて意見の異なる他の大学生3名(サクラ)とのディスカッションでどの程度,自分の意見を表明するかを測定した。思いやり目標の高い学生ほど,異論の表明は他者のためになると考え,よりはっきりと自分の意見を述べる傾向が見られた。有能な印象や「いい人」である印象を与えたい学生ほど,異論を述べることは自分のためになると考える傾向があったが,実際の表明行動は予測しなかった。
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