研究実績の概要 |
本研究では, 典型的バーンアウトのメカニズムを明らかにするために行動実験を用いた検討を行っている。平成27年度は, 大学生を対象とした行動実験を行い, 典型的バーンアウトが「報酬が得られない状況であっても, 個人の持つ理想・使命感によって援助行動を繰り返し, 結果として精神的消耗が蓄積した状態」であることを示した。平成28年度は, それまでの研究結果を国内外の学会で発表し, 国際誌に投稿した (査読中)。また, 継続して報酬が認められなかった場合の精神的疲労の変化について検討するために, 実験参加者に他者の精神状態を推測させる場面想定法実験を行った。場面想定法で用いた内容は, アルコール依存症のクライアントに対して, 看護師が支援を行う内容であった。シナリオは, 報酬要因 (支援がうまくいくかどうか) 及び 情熱要因 (看護師の理想使命感の有無) を操作した4種類を作成した。実験参加者 (介護福祉士113名) は4回の継続した支援場面 (蓄積要因) で構成されたシナリオを読み, シナリオの主人公である看護師の情熱と精神的疲労の変化を類推した。報酬要因 (あり・なし) 及び情熱要因 (あり・なし) を被験者間, 蓄積要因 (4場面) を被験者内に配置した3要因分散分析の結果, 報酬の有無に関わらず, 情熱の強度は支援の経過に伴って減少傾向となる一方で, 支援者本人に理想や使命感があれば情熱の強度が減少しないことが明らかとなった。一方, 報酬の有無とは独立に支援を継続するに従って精神的疲労が蓄積していることも示唆された。これらの結果によって, 平成28年度に行う行動実験の研究計画を確立することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
臨床スタッフを対象とした場面想定法による調査の分析を行った結果, 当初予定していた実験プログラムを大幅に修正する必要性が生じた。具体的には, 繰り返しの実験を行う際のシナリオや, 実験に再び参加するかどうかという意図の確認方法について修正を加えたため, 平成28年度中には, 行動実験の施行に至っていない。現在修正プログラムの大部分が完成に至っており, またそのプログラムは平成29年に予定していた実験にも援用可能なため, 当初の目標を達成できる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は, これまでの研究結果の公表として, 国際誌への投稿, 国内外での学会発表などを予定している。また, 平成28年度に収集した場面想定法実験は, あくまで他者の感情の推測に過ぎない。平成29年度は, 場面想定法実験で得られたデータを元に, 学生を対象とした行動実験及び臨床スタッフを対象とした行動実験を行う予定である。また, 研究の進捗に応じて離職者を対象とした質問紙調査についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた実験プログラムを大幅に修正する必要性が生じ, 実験を延期したため, 実験参加者への謝礼, 実験用PCの購入費, 実験補助者の人件費を使用しなかった。
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