研究実績の概要 |
本年度は,相互作用の相手を選択する状況における,共同体成員自らの手で規範逸脱者を罰する個人罰と評判との関連について検討した。個人罰が成立する背後には,個人罰には他者から相互作用の相手として選ばれる評判としての利益が存在するという前提がある。しかし,いかなる理由で人々が罰行使者を選択するのかについては明白に示されていない。そこで,罰行使者が相互作用の相手として選択される確率が,いかなる変数に影響されるかを解析した。罰行使者を選択する確率を予測する上で,選択者の期待獲得利益,もしくは罰行使者の期待獲得利益のいずれに対するウェイトが高いかを比較した。その結果,自己の期待獲得利益のみを説明変数としたモデルが罰行使者の選択確率を予測する上で最も説明力が高いことが示された。すなわち,非協力者を制裁したことの見返りとして罰行使者を褒賞するというよりも,罰行使者は自分に利益をもたらしてくれる相手であると期待するために人々は罰行使者を相互作用の相手として選択している可能性を示している。これは,近年注目されている他者利益の増減に配慮する社会的選好よりも,自己利益の変化に注目する強化学習の行動規則が,協力の文脈における行動において重要な役割を果たしているという指摘(Burton-Chellew et al, 2014; Horita et al, 2017)とも関連する。今回の解析は,相互作用の相手を選 択可能な状況における個人罰を対象としたが,付き合いが固定的な場合など,異なる状況における検討が今後の展開として残されている。
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